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「……わ、」
朝目が覚めるとドアップの直樹の顔。なあ、と朝から艶っぽい声で言われてしまって、どきりと心臓が脈打つ。
「あれ、俺のためにわざわざ？」
「……食べたんだ」
「食べるよ、そりゃ」
「その前になんかわたしに言うこと、ないの」
「……ごめん。昨日がバレンタインってこと、すっかり忘れてて、仕事も立て込んでて」
ああ、やっぱり。そういうイベントごととか、興味ないんだ、同棲してからはじめてのバレンタインなのに。
「……もういいよ、浮かれてたわたしがばかでしたよ」
「待ってよ、最後まで聞いて」
「俺、調べたよ、バレンタインにバウムクーヘンを渡す意味」
「……、え、」
ぎゅう、と抱きしめられたので、ちょっと、と背中をぽんぽん叩くけどちっとも離れてはくれない。なんで昨日がバレンタインってことも忘れるようなひとが、その日にあげるものの意味はちゃっかり調べちゃうんだろう。
「俺も、Aとの幸せがずっと続いたらいいなって、そう思ってる」
「……、ずるいよ、」
「なにが？」
「……ああもう、そういうとこ！」
恥ずかしくなって布団にもぐり込むと、直樹も入ってくる。ちょっと、もう仕事でしょ、と言うと、「あれ、言ってなかったっけ？今日休み」と片方だけ口角を上げてみせた。ほんとうに、ずるい男だ、このひとは。
ゆるりとあまい雰囲気になって、直樹のくちびるがわたしのそれにゆっくりと重なる。何度も角度を変えながら求め合っていると、なんとなく、「幸せ」を感じていられた。
「なんかさ、こういう朝がずっと続けばいいのにね、」
「……ほんとそういうとこ、」
「すき？」
「……ばか、」
わたしたちの「幸せ」はいつまで続くかわからない。明日には目の前にいる恋人と別れてしまうかもしれない。そんな脆い関係のなかでも、この幸せな日々が続くことを願うことだけは、どうかゆるして。
(バレンタインにバウムクーヘンを渡す意味「幸せが続きますように」)
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作者名：徒歩 | 作成日時：2024年1月26日 0時
