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その夜はすぐに帰された。帰されたといっても、こんな時間にひとりで歩くのはあぶないからと直樹が送ってくれたのだけれど。ほろ酔いで直樹と歩く夜の東京は存外星がきれいで、泣きそうになった。
その夜、家のベッドの中で、直樹のことは諦めようと思った。わたしが直樹より9年遅く生まれたことも、わたしが直樹のいとこだということも、すべてが必然で、どうしようもないことだ。直樹より若くてイケメンで、やさしい彼氏を見つければいい。ただそれだけの話。
なのにどうしてこんなに切なくて胸がきゅう、と締めつけられるのだろう。直樹なら、この痛みの正体がわかるのだろうか。
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「箸持ってってー」
「はーい」
「あんがと」
諦めると言ったのはどこの誰だったか。数日後、気づけば彼の家で鍋を囲んでいた。そもそもあれだけしっかり振ったのに、なぜかまた家に誘ってくる直樹が悪いのだ。
料理はからっきしなわたしはいつも直樹に作ってもらうのだが、あまり料理をしない直樹の作ったものの中では、今回の鍋は抜群においしかった。ふたりしてふう、ふう、と熱々の肉や野菜や豆腐を冷ましながら食べすすめていく。おいしいね、うん、うまい、と一言二言の会話を交わしていると、なんだか今日だけは直樹の彼女になった気分だった。
「あのさあ、」
「ん？」
「俺なんかのどこが好きなの」
いきなり核心をついた質問がきて思わずむせる。え、そんなに？大丈夫？と自然に背中をさすってくれて、そういうところが好きなんだよ、と怒ってやりたくなった。
「……全部」
「え、えー……そういうの言われ慣れてないからさ……困るわ、なんか」
「自分から聞いといて困んないでよ」
直樹はばつが悪そうに後ろ首をさわる。
「……Aはさ、やさしい子だし、しっかりしてるし、まあ料理はできないけど、かわいいし、素直だし。俺なんかにはもったいないと思うんだよな」
「……もったいないとか、」
「わかってるよ、そういうことじゃないんでしょ？」
「わかってるなら、さ、」
「でも、俺じゃないよ。Aと一緒にいるべきひとは」
きっぱり言われてしまってどう返せばいいのかわからなくなった。わたしを傷つけないようにと、慎重に言葉を選んでくれているのだろう。そのほうが余計に傷つくの、わからないのかな。直樹の隣にいるのはわたしではだめだと、暗に言われているようでつらくなってしまう。
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作者名：徒歩 | 作成日時：2024年1月26日 0時
