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「Aがはたちとか、信じられないよなあ、ほんと」
「ねえまだ言う？それ」
「だってこんなに小さかったんだよ？」
「それおじさんが言うことだから」
「うわ、え、俺まだ29よ？」
「もうアラサーでしょ」
「おいおまえ、アラサーとか言うなよ！」
直樹と話すのはやっぱり楽しくて好きだ。だけど9歳の差はどうあがいたって埋まらない。わたしが生きてきた20年間を彼は知っているけれど、彼が生きてきた9年間を、わたしは知らない。
「なおきさあ、彼女とかいないの」
「なに、もう酔ってんの？」
「酔ってないけど。気になるなーって」
「いたとしてもおまえには言わないね」
「え、ひどくない？」
「おまえも彼氏できても俺にべらべら喋んないでしょ？それとおんなじ」
彼氏なんかできないよ。できても直樹のこと忘れられなくてすぐに別れてきたんだよ。なんて言えるわけがなく、缶チューハイを呷る。
「ちょっと、あんま飲みすぎんなよ？」
「そっちこそ、あんまり子ども扱いしないでよ」
「俺は心配して言ってんの」
「嘘だね」
酔いがまわって、もうどうにでもなればいい、という投げやりな考えがよぎる。
「彼女いないならさあ、」
ゆっくりと顔を近づけて、彼のくちびるにちゅ、と口づける。はじめて知ったほんとうに好きなひととのキスは、ビールの苦い味がした。
「こういうことしてもいいってことでしょ」
「……は？……え、おまえ、……なんで？」
「……すきだからに決まってるじゃん」
「……いや、ないだろ」
「ないとかないんだけど」
「9歳も離れてんだよ？」
頭がくらくらして痛い。直樹はびっくりしたような、訳がわからないといったような顔をしている。引いてるんだろうなあ。9歳も年下の、妹みたいに思っていた女からいきなり好意を向けられて。
「……ごめん、俺は、そういうふうに見たことなかったわ」
「……そう、だよね」
「うん、……」
直樹はどうしたらいいかわからないといった様子で黙り込んだ。缶チューハイのあまったるい味を感じながら、わたしはただ時計の針の音を聞いていた。
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作者名：徒歩 | 作成日時：2024年1月26日 0時
