追想-TUISOU-１０ Secretな彼女番外編 (ページ29)

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リンは俺の気持ちなんかよそに
今度はトレイの上に
サラダや、生ハム、チーズ、バゲッドなど
簡単につまめそうなものを並べていき

そして、
ワインのボトルを添えた

「ごめん、本当に家にあるものがさ、
あ・・・
でも、そのオイルサーディンはかなり美味しい」

「そうなんだ」

「缶詰だけど・・・」

「あはは、いいよ、十分」

10年前、ここで最後の食事をした時を思い出した

次々と年季の入った木製のテーブルの上に
色とりどりのサラダや、果物が置かれていく

そして

「車？なわけないか」

そう言って、ワインのボトルを手にし

「これ
うちでできたワインなんだけど、
飲む？」

と言って笑う

俺はそういえば、
さっき帰りにタクシーを迎えに来てもらうために
連絡先を聞いたことを思い出した

「あぁ、ありがとう、
って、それさ・・・」

俺がそこまで言うと

ニコっと笑い

「そう、ここで取れたワイン
味はそこらのワイナリーよりもおいしいと思う」

そう言いながら、
オープナーを回し、コルクを引き抜こうとするけど
なかなか抜けず

「貸してみ？」

と俺は、そのボトルを手にし
オープナーを引っ張る

「硬ってっ、結構キューキュー」

「飲ませたくないのかも・・・」

そう言って笑うリンに

「んなわけねぇだろ？」

そう言って思いっきり、引っ張ると
キューっと音を立ててそのコルクが抜け

俺はリンに向かって
わざと残念そうに笑う

そして
綺麗に磨かれたそのワイングラスに、
ワインを注ぐと

天気もいいからか
光に反射して
それこそ美しいボルドー色が中で揺れた

「綺麗だな」

「でしょ・・・」

と嬉しそうにいるリンを見て
トクンと胸が鳴り

「リンじゃねぇし、ワインだからな」

とワザとらしく言うと

「んなのわかってるって、
私、おばさんだも～ん」

と言って笑う

「あ・・・いや、ごめん、
そこは否定させてもらうわ
リンは変わってねぇし・・・
むしろ、俺と付き合ってた頃より？
綺麗になったと思うけど？」

「何それ・・・口説いてる？」

はにかんだリンに
少しばかり動揺し
俺はグラスを手にする

「飲んでいい？」

「もちろん」

俺はそのグラスを鼻の近くに持っていき
その香りをかぐ

正直、
こんなことをしてもワインの良しあしは
わからないのだけれど

でもその香りはそんな素人な俺でも
わかるくらい果実の香りがした

「ブドウの香りがする」

「当たり前じゃない、ワインだもん」