追想-TUISOU-１０ Secretな彼女番外編 (ページ41)

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リンが少し目を細めた

「ポルトガルに行こうと思った１年くらい前に
私の中でいろんなことが変わっていったの」

「いろんなこと？」

「そう、いろんなこと。
まず、その一つは、行方不明だった兄の消息が分かったという連絡」

「そうなの」

俺はビックリして
目を見開いた

「うん・・ただ」

そう言って口をつぐんだ
でもすぐさま俺を見て

「生きては無かった・・・」

「・・・え？」

「その知らせはもちろん、領事館から届いたのだけれども
実際、遺体も無ければ、死因すらわからなかった・・・」

そう言って力なく笑った。

「もちろん、なんの証拠もないまま、
私たち家族は受け入れられることができなくて」

「確かに、ご家族の気持ちを思うと」

俺はどう声をかけてあげたらいいのか
言葉を詰まらせた

「お葬式もあげれない、どうしたらいいのかわからない、
死亡届すら・・・
で、そんな中、ますます祖母の具合は悪くなって、
と言ってももう年齢も年齢だったのもあるんだけど
誰が、あの酒造を守るかという話が
さらに固まってきたの」

風が俺らの間を通り抜ける
テーブルの下で、
リンのスカートがハタハタと音を立てた

「さっきも言ったけれど、その当時、翔は別の人と付き合っていたけれど
私の中では少しはあったのよ・・・その学生の時に描いていたような
翔と人生を共にすることも
会えばやっぱり好きだって思うし、次の日慌てて帰る翔の姿を見たら
寂しくなるし・・・
あ、これ過去の話だからね」

そう言って含み笑いを見せる

「・・・」

「でも、兄が亡くなり、祖母も人生を終えようとしているこの時に、
大きな選択をしなくてはいけなくなったの
付き合い始めたころに、私には決められた人がいるって話しなかったっけ」

「いや・・・あ、年上の元彼いるって
そう言えば」

「そう、実際元彼じゃなくて、
許嫁、しかもそんなに会ったこともない人よ
おとぎ話みたい」

そう言って笑いながら、ワインを口に含んだ

「たぶん、彼も同じ
だって自分好みの女では到底ないだろうし」

そう言って笑う

「背水の陣となってしまった私は、
結局、自分がどうしたいのわからなくなってしまった」

「そりゃそうだわ」

「そして、ほどなくして、
祖母はあの酒造を気にかけたまま
亡くなったの・・・
ただ私に最期「ごめんなさいね」って謝ってさ
その言葉が私には重かった」

１０年前俺が東京で結成10周年で駆け抜けていたころ
リンは人生の岐路に立たされていたんだ