追想-TUISOU-１０ Secretな彼女番外編 (ページ26)

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２０１９年６月ページ26

２０１９年６月

風とともに、懐かしいあの鈴の音が
この家の裏から聞こえた

俺の心臓がトクンと音を立て
そのまま自然と鈴が鳴る方へ足をすすめる

玄関から左、
そう、俺が最後にリンと
この１０年後を誓ったウッドデッキで作られたテラスがあり

さらにその奥から、
チリンと再び音が聞こえる

俺は、ウッドデッキを抜けると
風が勢いよくサッと吹いた

家の角に立ち俺は覗き込むように
その奥を覗くと

少しツバの広い帽子に
ベージュでオープンショルダーのワンピースをまとい
大きめのサングラスの女性が、
クルクルと指で軽く、
鍵らしきものを回しながら立っていた

その服装から、
日本人なのかフランス人なのかわからないくらい
この土地に馴染んでいたけれど、
その背格好を見てすぐに彼女だと俺は気づく

そして、彼女もまた
俺の姿を見てビックリしたのか
クルクルと回してた指を止めると
指先の鍵がピュンと勢いよく指から離れ、

家の壁に当たり、チリンと音を立てて落ちた。

「・・・・」

再び、
丘の下から風が吹きあがり
彼女のワンピースの裾がバタバタと揺れ

一瞬止まった時を元に戻した

鍵は落ちたまま
彼女は
俺の顔を見ながら
ゆっくりとサングラスと帽子を外し
空いた手で髪を整える

まっすぐに俺を見る瞳は、
昔と変わらず、黒目がちで
１０年前とさほど変わっていなかった

「・・・翔」

俺のことをそう呼んだ彼女に俺も

「ひさしぶり・・・リン」

と、緊張してるのか
自分でも明らかにわかるくらい
瞬きの回数を増やした
でも、それに気づかれまいと、
口角をあげ、笑顔を見せた

すると、リンはフと優しい顔で笑った

「どうしたの？急に？」

そう言いながら、
落とした鍵を拾う

「あ・・・いや、実は仕事で」

「仕事？こんなところに？」

「あぁ、あれだよ、ラグビーの取材でここに来ててさ」

すると
昔と変わらない表情で

「あぁ、
そっかワールドカップでサポーターかなんかやるんだっけ」

「え・・あ、そうそう
なんだよ、知ってるのかよ」

「まぁ、テレビで目にしない日はないから」

俺が驚いた顔をすると

「ヤダ、うぬぼれないでよ、
こっちじゃない、日本で」

そう言って笑った

１０年も経つのに
一気にその年月を埋めていく

いや、たぶん、
それはリンのこの変わらない性格もあるんだと思うけれど