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「うん、おいしいよ。私も熱出たときよく食べてたの。風邪ひいたって言ったらお母さんが絶対買ってくるの。」
「へー、うちはおかゆだったな。」
「だからおかゆ選んだんだ。お母さん恋しくなった?」
「は?」
「お母さんに甘えたくなったんでしょ?」
「は?」
「私、お母さんにはなれないよ?」
「…うるせぇ。」
ムキになった臣は私を睨んでから、半分に切れた桃をガブッとかじった。
……かわいい。
いつも風邪ひいてたらいいのにってちょっと意地悪なことを思う。
「おいしい?」
「……甘い。」
「それがいいんじゃん。そのシロップも甘くておいしいよ?」
「お前これ飲むの?」
「うん、全部飲む。甘すぎて水が欲しくなるけど。」
「お前ってほんとガキっぽいのな。」
「あ、そんなこと言うならもう食べなくていいよ。私食べるから返して。」
桃缶を奪おうと手を伸ばしたら、臣は何言ってんのって顔で缶詰を持った手を上に伸ばした。
「ウソだよウソ、そんな怒んなよ。」
「だって文句ばっかりなんだもん。おいしくないなら食べなくていいよ。」
「おいしくないとは俺言ってないけど。」
「甘いって……おいしいとは言ってない。」
「甘くてうまいって意味じゃん。」
「そんなのわかんないよ。いつも言葉が足りないんだよ臣は。」
「お前にはほんと伝わんねぇな、いつも。びっくりするくらい。」
「ちゃんと言ってくれなきゃ誰だって伝わんないと思うけど。」
「なんでも言えばいいってもんじゃねぇだろ。それが相手を苦しめたらって思ったら……言えねぇよ。」
手を下ろした臣は桃缶を握りしめてそれを見つめて、そんなことを言った。
そのとき臣が苦しそうに顔を歪めた理由が私にはわからなかった。
どうして話の論点がズレたかなんてわからなかった。
「おいしいって言われて、苦しむ人なんていないと思うよ?」
「……だよな。」
何言ってんだ俺、って臣は鼻で笑った。
「……食う?」
「うん。ひとつ食べたい。」
「シーツに零すなよ?」
「大丈夫。」
そのあと、ひとつだけ桃をもらって、臣は全部食べた。
これ甘すぎって、シロップは飲まなかったけど。
うまかったって、満足そうに言ってくれた。
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くるみ(プロフ) - atokさん» atokさんお待たせしました。atokさん的にはおいしい展開になってきましたよ。あー、流されちゃう(笑) (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 白雪さん» 白雪さーん!お待たせしました。やだ、白雪さんの怒りが爆発しちゃってますね(笑)どうしよう…この先ちょっと白雪さんの反応が怖いというか楽しみというか(笑)また待ってますよー。 (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 名無し49962号さん» 名無し49962号さんお待たせしました。ドキドキしていただけて光栄です。なにかと切ない場面ばかりなので、そういった声を聴けて安心しました。こちらこそコメントありがとうございます。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ねーやんさん» ねーやんさんお待たせしました。先の妄想はいかがですか?お話の内容と合ってたかな?(笑)優しい隆二だから……どう動くんでしょう(笑) (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - yuさん» yuさんお待たせしました。課長にイライラしちゃってます?(笑)ほんと言葉足らずな人で…糸は絡まるばかりです。そんな課長をどうぞこれからも見守ってあげてください。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ | 作成日時:2019年1月24日 23時