146 広臣side ページ48
.
「それで登坂くん、話っていうのは?」
取り乱していた小百合さんは、オーナーの横に座って足もとを見ていた。
膝の上で両手を握りながら。
「小百合さんとの婚約を解消させていただきたいんです。」
俺だって人間だから、こんなことを平気で言ってるわけじゃない。
小百合さんの気持ちを考えると、自分には失望しか感じない。
結婚に期待を持たせておいて、目前で解消なんて、気が狂ってもおかしくない状況なのはわかってる。
けど、もう引けない。
誰かを愛する気持ちを知ってしまった今。
それ以上に大切にしたいものが見つからなくなった。
「病院での二人を見たら、なんとなく察しはついたけど……それがどういう事なのか君はわかってるんだよね?」
「もちろんです。」
「うちの跡取りの話も解消だよ。オーナーの席を君には譲れない。」
「はい。」
「どうするつもりだい、今後のことは。」
「……明日、辞表をお渡ししようと思ってます。」
「君の意思は決まってるってことか。」
「横浜のオープン前に、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。」
頭を下げながら、自分の手が震えてることに気がついた。
尊敬するこの人の元で定年を迎えるまで働き続けたいと思ってた。
上を目指して、仕事で成功したいと夢みてた。
夢が叶う一歩手前で、全部を手放すことに、躊躇いがないはずない。
この先どうなるんだろうって不安もよぎるけど、この決断を後悔だけはしたくない。
「とりあえず2、3日は休みなさい。辞表はそれからにしよう。こちらも人事の話し合いだ。」
「本当に申し訳ありません。」
「こちらこそ、娘が大変なことをしてしまって申し訳なかった。君と一緒にホテルを作り上げていくのは楽しかったから、残念だよ。」
その言葉を聞いて泣きそうになった。
こんな俺に、残念だなんて言葉をかけてくれるなんて思わなかったから。
家の前にタクシーを着けてくれたオーナーに会釈して門を出た。
タクシーに乗る寸前走る足音がして、振り向いたら小百合さんが駆け寄ってきた。
「広臣さん、本当にごめんなさい。怪我させてしまって、どう償ったらいいのか……」
ごめんなさいと泣きながら何度も謝る彼女。
「あなたを傷つけてしまったことを俺は一生忘れません。けど、小百合さんは俺のことなんか早く忘れて、幸せになってください。」
最後まで彼女を抱きしめることは一度もなかった。
1071人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くるみ(プロフ) - atokさん» atokさんお待たせしました。atokさん的にはおいしい展開になってきましたよ。あー、流されちゃう(笑) (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 白雪さん» 白雪さーん!お待たせしました。やだ、白雪さんの怒りが爆発しちゃってますね(笑)どうしよう…この先ちょっと白雪さんの反応が怖いというか楽しみというか(笑)また待ってますよー。 (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 名無し49962号さん» 名無し49962号さんお待たせしました。ドキドキしていただけて光栄です。なにかと切ない場面ばかりなので、そういった声を聴けて安心しました。こちらこそコメントありがとうございます。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ねーやんさん» ねーやんさんお待たせしました。先の妄想はいかがですか?お話の内容と合ってたかな?(笑)優しい隆二だから……どう動くんでしょう(笑) (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - yuさん» yuさんお待たせしました。課長にイライラしちゃってます?(笑)ほんと言葉足らずな人で…糸は絡まるばかりです。そんな課長をどうぞこれからも見守ってあげてください。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:くるみ | 作成日時:2019年1月24日 23時