144 広臣side ページ46
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血相を変えた小百合さんを見たのは、別れを切り出した次の日だった。
横浜から戻って、エントランス前でタクシーを降りてすぐ。
ちょうど自動ドアを潜る小百合さんがいて、俺が声をかけたら勢いよく振り向いた。
目を真っ赤にして。
「小百合さん、何してるんですか。」
「……あの人のせいですよね、私と別れるの。」
「……なに持ってんの。」
「あの人さえ居なければ……いいの。」
「小百合さん!!」
彼女は手に果物ナイフを握ってた。
小さな手を震わせて、怒りに満ちた表情で。
「離して!」
「なにしてんだよ、誰が離すかよ。」
「離してよ!広臣さん奪った女なんかいなくなればいいの!」
ホテルに入ろうとする小百合さんを力ずくで引き止めて、ナイフを奪おうと手を掴んだ。
「やめろって。あいつは何も悪くねぇよ。」
「うるさい……うるさい!そんなこと聞きたくないの!」
変にアイツを庇ったせい、俺がアイツを好きだと口を滑らせたせい。
全部、俺がバカなせい。
「わかった、わかったから。」
「離してってば!」
女の力なんてどうにでもなると思った。
ちょっと手首を掴めば離すんだろうと思った果物ナイフ。
「あの女もアンタも大っ嫌い!」
「……小百合…さん……」
彼女が振りかざしたナイフは俺の腕を目掛けて降りてきた。
一瞬で広がる痛みと赤い染み。
ぽつぽつと地面に滴る雫に目眩が起きた。
「……ひろ……広臣、さん……わたし……」
「大丈夫……だから。」
「あの、あのっ、わたし……」
「小百合さん、タクシー乗って。」
あまりの痛みに薄れそうな意識の中、小百合さんをとりあえず落ち着かせたかった。
こんなとこ、客や従業員に見られたら騒ぎになるのは確実だから。
小百合さんや父親のオーナーを守りたいと、こんな時にも思ったのは、これも俺が悪いから。
すべて俺が招いた悲劇。
最悪すぎて笑えるわ。
「支配人に呼ばれてそっち行けそうにないから、Aに伝えて。」
タクシーの中、すすり泣く小百合さんの横で、サロンに電話をかけた。
Aは電話に出なかった。
今にも飛びそうな意識に弱気になった。
このままAに会えなくなるのが、どうしようもなく怖かった。
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くるみ(プロフ) - atokさん» atokさんお待たせしました。atokさん的にはおいしい展開になってきましたよ。あー、流されちゃう(笑) (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 白雪さん» 白雪さーん!お待たせしました。やだ、白雪さんの怒りが爆発しちゃってますね(笑)どうしよう…この先ちょっと白雪さんの反応が怖いというか楽しみというか(笑)また待ってますよー。 (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 名無し49962号さん» 名無し49962号さんお待たせしました。ドキドキしていただけて光栄です。なにかと切ない場面ばかりなので、そういった声を聴けて安心しました。こちらこそコメントありがとうございます。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ねーやんさん» ねーやんさんお待たせしました。先の妄想はいかがですか?お話の内容と合ってたかな?(笑)優しい隆二だから……どう動くんでしょう(笑) (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - yuさん» yuさんお待たせしました。課長にイライラしちゃってます?(笑)ほんと言葉足らずな人で…糸は絡まるばかりです。そんな課長をどうぞこれからも見守ってあげてください。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ | 作成日時:2019年1月24日 23時