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「ルームキー持ってくね?」
「あぁ、いいよ。どうせ外出れねぇし。」
「じゃああとでね。」
「仕事、なんかあったら電話して。」
「今は仕事なんか忘れてゆっくり寝てて。」
1312号室のカードキーを財布に入れて、急いでサロンに戻った。
打ち合わせ予定のご夫婦がホテルに到着するまであと数分。
気持ちを入れ替えて資料をかき集める。
ここからは仕事に集中、集中。
………してた、はずなのに。
打ち合わせが終わって事務所に戻ってからは、壁に掛かる時計を何度も眺めて。
熱に効く市販薬をパソコンで調べてみたり、アレ買ってこうコレ買ってこうって、考えているのは臣のことばかり。
カノジョでもないのに。
図々しいとは思いながらも、仕事を定時で切り上げて、ホテルの近くにあるドラッグストアに駆け込んだ。
薬を選んで、冷えピタに栄養ドリンク、おかゆにゼリー、それと、私が熱を出したときによく食べる桃の缶詰。
思いついたものを片っ端から買い込んでホテルに急いで向かった。
傘をさして、まだ降り続く雨をよけて。
数時間後の1312号室。
財布からカードキーを取り出して静かに鍵を開けて中に入った。
シーンと静まり返る部屋はカーテンも締め切った状態で、もう真っ暗だった。
「……おみ?」
名前を呼んでも返事はなくて、ベッド脇まで行くと、そこには苦しそうに顔を歪めて眠る臣がいた。
おでこに乗せてあげたタオルはベッド横のテーブルに無造作に投げられてた。
寝返りを打つのに邪魔だったかな。
買ってきたものをビニール袋ごと一度床に置いて、そっとおでこに触れてみた。
……熱、上がってない?
おでこには汗をかいて、触れた手に熱が伝わる。
……かわいそうに。
すぐに冷えピタを箱から出して、シートを捲りながらおでこにつけた。
「……んっ……」
冷たかったのか、臣は眉間にシワを寄せて反応した。
「…おみ?」
もう一度呼んでみても起きる気配がない。
とりあえず買ってきたものを冷蔵庫に詰めていたら、床に置いていたバッグの中でスマホが鳴った。
物音一つしないこの部屋に低いバイブ音はやけに響く。
スマホカバーを開けると、画面には隆二の名前。
臣を起こさないように静かに脱衣所に入ってドアを閉めた。
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くるみ(プロフ) - atokさん» atokさんお待たせしました。atokさん的にはおいしい展開になってきましたよ。あー、流されちゃう(笑) (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 白雪さん» 白雪さーん!お待たせしました。やだ、白雪さんの怒りが爆発しちゃってますね(笑)どうしよう…この先ちょっと白雪さんの反応が怖いというか楽しみというか(笑)また待ってますよー。 (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 名無し49962号さん» 名無し49962号さんお待たせしました。ドキドキしていただけて光栄です。なにかと切ない場面ばかりなので、そういった声を聴けて安心しました。こちらこそコメントありがとうございます。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ねーやんさん» ねーやんさんお待たせしました。先の妄想はいかがですか?お話の内容と合ってたかな?(笑)優しい隆二だから……どう動くんでしょう(笑) (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - yuさん» yuさんお待たせしました。課長にイライラしちゃってます?(笑)ほんと言葉足らずな人で…糸は絡まるばかりです。そんな課長をどうぞこれからも見守ってあげてください。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ | 作成日時:2019年1月24日 23時