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螺旋階段のラスト3段目。
そこに足を置いた臣は顔を足もとから上げた。
その瞬間、目が合って、動きを止めた。
私と臣の時間までもが止まってしまったかのように、目を合わせたまま、2人して動かなかった。
ただ一人、空気を破る。
「Aさん、こんにちは。」
階段を上がってきた小百合さんは、私の目の前に立つ。
いつもの優雅で、余裕の笑みで。
「お久しぶりですね。」
「……はい。」
「今日は広臣さんとランチがしたくて、無理言って時間を作ってもらったんです。ここの中華がおいしいって父から聞いてたので、食べてきたとこなんです。」
「そうなんですね。私の友人も、おいしいって言ってました。」
「へぇ、やっぱり人気なんですね。」
臣とのランチ。
聞いてもないことを話してくるのは、私への挑発なんじゃないかと思う。
もうそんなこと、しなくたっていいのに。
あなたから彼を奪ったりしないから。
「今度Aさんも一緒にいかがですか?広臣さんと3人で。」
「えっ……」
そんなの絶対ムリ。
2人で並んでるとこを見るのも辛いのに、食事までするなんて地獄だよ。
返事に困ってる私に、気づいたのは臣だった。
「もう時間です。」
やっと階段を上がってきて、小百合さんの背中を手で押した。
「行きますよ、小百合さん。」
「え?……広臣さん?」
「なんですか?」
「……小百合さんって……」
「ここは職場です。それに、部下の前で公私混同は避けるべきかと。」
納得しない顔で見る小百合さんを連れて、臣はホテル玄関へと向かっていく。
そんな気をつかってくれなくていいのに。
なんなの2人して。
ばっかみたい。
2人の後ろ姿を見て、腹が立って、惨めになった。
私だけ、ずっと同じ場所にいる。
新しい恋もできない、過去を忘れることもできない。
こんなの、もうイヤだ。
いつまでも下を向いてばかりいる私が、一番ばっかみたい。
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くるみ(プロフ) - atokさん» atokさんお待たせしました。atokさん的にはおいしい展開になってきましたよ。あー、流されちゃう(笑) (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 白雪さん» 白雪さーん!お待たせしました。やだ、白雪さんの怒りが爆発しちゃってますね(笑)どうしよう…この先ちょっと白雪さんの反応が怖いというか楽しみというか(笑)また待ってますよー。 (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 名無し49962号さん» 名無し49962号さんお待たせしました。ドキドキしていただけて光栄です。なにかと切ない場面ばかりなので、そういった声を聴けて安心しました。こちらこそコメントありがとうございます。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ねーやんさん» ねーやんさんお待たせしました。先の妄想はいかがですか?お話の内容と合ってたかな?(笑)優しい隆二だから……どう動くんでしょう(笑) (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - yuさん» yuさんお待たせしました。課長にイライラしちゃってます?(笑)ほんと言葉足らずな人で…糸は絡まるばかりです。そんな課長をどうぞこれからも見守ってあげてください。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ | 作成日時:2019年1月24日 23時