114 隆二side ページ16
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「……いけると思ったのさー。なんで俺じゃダメなんだよ……。」
顔とテーブルの間に涙のしずくを溜めて岩ちゃんは話し続ける。
好きな人ができたと話してきた数年前からの記憶が一気に走馬灯のようによみがえる。
本当にまっすぐ、一途に思い続けてきた岩ちゃん。
その過程を知ってるからこそ、俺は自分の気持ちに少しだけ蓋をしようと思った。
「もー、泣いてるし俺……だっせぇマジで。」
「あのな、今は辛くて下向いてしまうけど、それでええんやで?泣きたきゃ泣きゃいい。泣きたくなるほど、頑張ってきたってことやん。そんだけ人を愛せたってことや。」
「……健二郎さん……やめて、ほんと無理。」
「あいつと縁がなかっただけで、人生これからも出会いはそこらじゅうにあるんやから。なんも諦めることなんかないんやで。」
今は頑張った自分を褒めてやりぃ、って優しく言い聞かせる健ちゃんは岩ちゃんの頭をそっと撫でた。
顔をぐしゃっとさせて、岩ちゃんは腕に顔を押しつけて肩を震わせる。
弟みたいに可愛がってきた岩ちゃんの失恋。
気がつけば俺の目にも涙が浮かんで、こぼれないように天井を見上げた。
健ちゃんがいいこと言うから、なんかすげーグッときた。
ひとしきり泣いた岩ちゃんは服の袖で顔を雑に拭いて、やっと酒をひと口飲んだ。
目は真っ赤になってるけど、だいぶ酔いはさめたのかすっきりしたように見える。
「あれ?隆二さん全然飲んでなくない?」
量が減ってない俺のグラスを見た岩ちゃんはそんなことを言う。
いや、もうこれ6杯目だし。
濃かったせいで酒まわってるけど。
「飲んでる飲んでる。俺けっこう酔ってるから。」
「いやいや、全然足りてないから。もうさ、今日は潰れよう?ね?一緒に飲もうよ隆二さーん。」
「でも俺まで潰れたら帰れないからさぁ……ねぇ?健ちゃん。」
「別に泊まっててもええけど。俺は一切面倒見んけどな。」
「はぁ?なに言ってんの?健二郎さんも飲ますからね俺。朝まで俺を慰めてー。」
めんどくせー、って口を揃えて言った俺も健ちゃんも、それに岩ちゃんも、このときばかりは笑った。
どんなに辛くて泣いたって、仲間がそばにいれば、またこうして笑える。
今夜はもう、Aのことは考えずにいよう。
恋愛はもちろん大事だけど、手放せないものは、ここにもあるんだと、2人を見て思う。
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くるみ(プロフ) - atokさん» atokさんお待たせしました。atokさん的にはおいしい展開になってきましたよ。あー、流されちゃう(笑) (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 白雪さん» 白雪さーん!お待たせしました。やだ、白雪さんの怒りが爆発しちゃってますね(笑)どうしよう…この先ちょっと白雪さんの反応が怖いというか楽しみというか(笑)また待ってますよー。 (2019年4月8日 20時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 名無し49962号さん» 名無し49962号さんお待たせしました。ドキドキしていただけて光栄です。なにかと切ない場面ばかりなので、そういった声を聴けて安心しました。こちらこそコメントありがとうございます。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ねーやんさん» ねーやんさんお待たせしました。先の妄想はいかがですか?お話の内容と合ってたかな?(笑)優しい隆二だから……どう動くんでしょう(笑) (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - yuさん» yuさんお待たせしました。課長にイライラしちゃってます?(笑)ほんと言葉足らずな人で…糸は絡まるばかりです。そんな課長をどうぞこれからも見守ってあげてください。 (2019年4月8日 19時) (レス) id: b2014868ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ | 作成日時:2019年1月24日 23時