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というのも、六歳の頃だったかユニーク魔法が発現したカリムは喜色満面、宮の中で所かまわずユニーク魔法を発動させた。結果、水浸しの壁や床の掃除に追われるのは無辜の使用人と、付き人であるジャミルだった。掃除の手間と誰も知り合いが来ない場所を失うというプライバシーの侵害とを天秤にかけた結果、
「…………カリム、来い」
ごくわずかに手間が勝り、ジャミルは苦虫を嚙み潰したような顔でカリムを引きずることにしたのだった。
二人は初めに、カリムの部屋から裏口のある倉庫へ向かう算段を立てた。宮殿は侵入者に備えて、ところどころで隠し部屋があったり複雑なつくりとなっているが、大まかには中央を三角形にくりぬいた四角形の建物だ。東にある巨大な門扉を抜けるとまず目に入るのは噴水を擁した中庭だろう。幾何学的に配置された柱と植物は中央へ向けて等間隔に集まり、ただでさえ広大な庭をよりより広く見せる。三角形の中庭の外周に沿って伸びる通路の向かいは客間、奥へ向かえば使用人の居住区間となる。
一階にある倉庫へ二階のカリムの部屋から向かうには、西階段から降りていく最短経路ではなく柱を足掛かりに建物の外から直接、一階へ降りた方がいいだろう。宮殿内はどの時間帯であっても常に人の目があるし、外周からであれば気付くのはせいぜい警邏の者たち。ジャミルは彼らに顔が利くから、仮に見つかったとしても咎められることはないと踏んだ。
二人はカリムの部屋に入ると、煌びやかな調度品の中から大きなターバンを二つ見繕った。
「これなんかどうだ？ キラキラして、すげー綺麗だろ！」
「あのなあカリム、俺たちはこれから身分を隠して市街へ行くんだぞ。高価なものを身に着けてどうする」
「ああ、そっか。けど、地味なターバンなんてこの部屋にあったかな」
「この際大きい布なら何でも構わない……」
言いながら抽斗を探っていたジャミルが二枚の青いターバンを引っ張り出した。長い間強い日差しを受けずに保管されていたおかげか、夏の空のような深い青が冴え冴えと広げた布地に人がっていた。
「これは……トゥアレグ、いや、ケル・タマシェクの」
「おお！ 鮮やかできれいじゃないか。ちょうど二枚あるし！」
ジャミルは二度三度と布地を強く引っ張ると胡乱なことを言った。
「強度も問題なさそうだ」
「なんで強度が関係あるんだ？」
首をかしげるカリムに告げるジャミルは満面の笑みだった。
「そりゃあ、ここから直接下へ行くんだから」
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作者名：みょんた | 作成日時：2021年1月29日 23時
