開演ブザーは永遠に（３） (ページ9)

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明日の夜も任務だ。唯々諾々と学園の命令に従うのは、棗の中のなにかを――自尊心を、良心を、倫理観を――すり減らす行為であったが、棗に拒否権など与えられているはずがない。
　重たい制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びて、傷の痛みに耐えながら目を瞑った。

　そして、翌晩。任務を終えて学園に戻る。任務の内容はいくらか易しいものではあったが、昨夜の怪我が完治しておらず、疲労が溜まっていた。
　明日は学校をサボり、身体を休めよう。そう決めた棗は寮の廊下を進む。
　消灯時間の過ぎた今、明かりは最低限にしか灯されない。薄暗い照明が棗の部屋の前にいるなにかを浮かびあがらせた。
　“なにか”は、部屋の扉に背を預けていたが、足音に反応して立ちあがる。昨晩突き飛ばした彼女だった。

「…………」
「お、おかえりなさい。えっと、これ、セントラルタウンで買ってきて……」

　あれだけでは、あんな暴言だけでは懲りなかったのかと辟易する。
　彼女はその手に提げた袋を漁って、薬やテープ、湿布などを取り出す。どれもこれも普通の品ではなかった。セントラルタウン内の、闇ルートだかを使わねば入手できない、値の張るものばかりだ。
　異常なまでの献身ぶりに、再び苛立ちを覚えた。その品を受け取らず、無視して部屋に入る。

「ま、待って――っぅ……！」

　拒絶を示し、荒々しく閉じた扉は、完全には閉まらなかった。押し殺した悲鳴が聞こえる。四本の細い指が扉の隙間に挟まっていた。
　それを見た瞬間、棗の苛立ちは戸惑いに、そして、戸惑いは瞬時に怒りへと塗り替えられた。いつまでもこんな女につきまとっていられるかと思った。
　扉を開き、廊下に立つ彼女の腕を掴んで部屋に引き入れる。入り口に置かれた自動点灯の照明が仄かな明かりを灯した。
　冷たい床に彼女を押し倒す。状況が掴めず、きょとんとした顔に虫酸が走る。自分に近づけばこうなるのだと、その空っぽの頭に叩き込んでやりたかった。
　髪を掴み、頭を無理矢理引っ張りあげてから、床に叩きつける。ゴツンと重たい音が鳴り、細く、悲痛な息が彼女の口から洩れる。

「お前、なにが目的だ」

　低く問う。彼女の言動、そのすべてが棗の気に障った。泣いて喚いて、己に怯え――二度とその姿を自分の目の前に晒さないように。こんな同情のような、憐れむ真似をしないように、恐怖心を植えつけたかった。

「え、あ、け、怪我、してたから、心配で」

　こんな状況でも尚、彼女は呆けたことを言う。戸惑っていたが、怯えた様子はなかった。黒いまなこに涙は浮かんでいない。