開演ブザーは永遠に（３） (ページ6)

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「え？」
「その、こっちで踊ってみたいなーって」

　ドレスを着た私が男性側に、礼服を着たユーリ先輩が女性側に立つ。ぽかんとした顔にえへへと笑いを返す。
　振りつけが微妙に変わってくるからうまく踊れる自信はなかったものの、意外にも身体はすんなりと動いた。

「……ありがとう」

　去り際、ユーリ先輩に微笑まれて、ちょっと……かなり、ぽわんとしてしまった。破壊力抜群だ。

　休憩のアナウンスが入り、ダンスが中断される。その間は技術系のフィルハーモニーがクラシック音楽を奏でる。
　ずっと踊っていたから身体に熱がこもっていた。足は自然と人のいないほうへ向かう。道を外れて、茂みのほうへ。

「――Aちゃん」
「あれ、鳴海先生」

　夜風にあたり一人涼んでいたら、草木がこすれる音がして、新郎さんみたいに真っ白なタキシードを着た鳴海先生が現れた。ラストダンスを迫る魔の手から逃げ出してきた、にしては汗一つかいていない。

「ちょっとお話があってね」
「お話……？」

　やけに真剣な顔をされてドギマギする。私、なにかやらかしたかな。身に覚えがないだけあって、想像は悪いほうへ働く。薄っすらと嫌な予感すらした。

「……無効化のアリスを持つ先生について、知っていることを教えてくれないかな」

　――なんで、そんなこと聞くの。

　体温が緩やかにさがるのを感じた。――寒い。手足が冷たい。唇が震える。あんなに熱かった身体が一瞬で冷えきってしまう。

「し、知らない、なんにも」
「……本当に？」

　緑色の目が訝しげに細まる。鳴海先生は私のほうへさらに足を踏み出し、頭に手を伸ばして――アリスを使われる。そう直感した。

「っや、やだ……！」

　鳴海先生の腹のあたりを押す。突き放したかったのに、よろめいたのは自分のほうだった。

「Aちゃ――」
「やだ、やだっ、やめて！知らない、知らない、知りたくない！！」

　引きつった喚き声は周りの草木に吸い込まれる。以前神野先生に乞うたものとは真逆の願いだった。離れた場所から聞こえる演奏が余計に静けさを強調させて、私たちだけ別の世界に切り離されたようだった。
　視界が歪み、泣きそうになる、そんな姿を晒すわけにはいかないと、目に溜まった涙がこぼれないように瞬きをこらえる。唇を強く噛んで、なにもない場所を睨む。