開演ブザーは永遠に（３） (ページ48)

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「……お嬢ちゃん、どっかで俺と会ったことある？」
「え……？」

　レンズの光がきらんと反射して、その奥にある目が見えなくなる。

「おい速水、うちの後輩ナンパしてんじゃねえぞ」
「ナンパなんて失礼な。俺は殿やんと違って幼女趣味やないねん」
「誰がロリコンだボケ」

　ぽんぽん言葉を交わしながらも、まだ速水先輩はこっちを見ている。

「え……あ、あの、ない……と、思う……」

　殿先輩の背中に隠れながらおそるおそる速水先輩の顔を窺って、首を振る。関西弁だし、変わったメガネをかけているし、こんな特徴的な人は一度会ったらなかなか忘れない。セントラルタウンですれ違うくらいはしたかもしれないけど、こうやってちゃんと言葉を交わしたのは初めての気がする。
　なんとなく気になっただけ。とかなのか、そこから深く問い詰められることもなく、やんなあ、とだけ言って速水先輩は本題に入る。遠目・遠耳のアリスというだけあってトントン拍子に話は進んだ。
　まず、穴は実在する。さらりと速水先輩は肯定した。
　高等部の西校舎、二階の北奥。その場所に現れる二人組の幽霊。Ｚの侵入事件の時、付近では不審な二人組が目撃されている。
　幽霊は必ず小さなノートを手に持っていて、顔は、学園総代表の櫻野秀一そっくり。

「幽霊スポットの“ユーレイ”は幽霊じゃなかったってことか……？」
「そゆこと」

　速水先輩が頷く。幽霊の正体は、おそらく櫻野先輩。でも櫻野先輩は生徒会長で、生徒の中でも一番と言っていいほど学園と密接な関係だ。その生徒会長自身が侵入も脱走もできちゃう穴を隠しているの？どうして、なんのために。

「――だいたい、Ｚが学園に単独で侵入するなんてどう考えてもおかしかったんだ。けど、学園内に手引きをする奴がいるとなると話は別だ」

　殿先輩の声が重たく染み込む。
　櫻野先輩がＺの内通者かもしれない。Ｚは委員長のアリスを盗って、蛍ちゃんを撃ったのに。その手引きを櫻野先輩がしたの？
　ふと背筋が寒くなり、疑念があふれかえる。流されそうになるそれを堰き止めるように、心のどこかで、違うと叫んでいた。そんなことするはずない、って。
　言葉を交わした経験すらないというのに、私は櫻野先輩を信じたいと思っていた。