開演ブザーは永遠に（３） (ページ47)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:16,500 hit

4 ページ47

「……は、速水ー……いるかー……」

　息も絶え絶えに……いや、私の息は切れてないけど、新聞部に到着する。私というお荷物を抱えて走った殿先輩は特にぐったりしていた。もし先輩が抱えてくれなかったら脱落からの捕虜扱いになっていたのは間違いないだろう。感謝を込めて額の汗をハンカチで拭う。
　新聞部の部室にはたくさんの書類が所狭しと積みあげられていた。インクと古紙が混ざり合った匂いがする。ごっちゃりと散らかっていて、人の気配はない……と思いきや、紙の一山がもぞもぞと動き、中から変な眼鏡をかけた高等部のお兄さんが現れた。

「やっぱお前かー、殿やん。さっきの“高等部幼女連れ込み事件”の犯人はー」

　嫌な事件だったね……とか言われそうな名称がつけられていた。
　お兄さんは蜜柑ちゃんと同じ関西弁、それもコテコテのやつだった。アリス学園は地方各地から生徒が集まる反面、早くて初等部のＡ組、遅くてもＢ組には転入してくるから、だんだん訛りが薄れて標準語に近くなる。そんな中でここまでの関西弁は結構珍しい。親近感が湧くのか蜜柑ちゃんが反応する。

「こいつが新聞部部長の速水。部室みのむしで情報狂いのボケだけあって、今回のだいたいの事情はもう知ってやがると思うから」
「お前の全、女狂い歴も逐一な」

　殿先輩がモテるのも、彼女……らしき人を“とっかえひっかえ”してるのも重々承知のことだ。それでも女狂い歴と聞くとちょっとムッとしてしまう。
　口を尖らせつつ、すっかり息を整えた殿先輩にすり寄ると「拗ねるな」と、どこか嬉しそうに頭を撫でられた。
　うーん、撫でてくれたからよしとしよう。もうちょっと撫でて撫でてとぐりぐり手のひらに頭をすりつけて目を細めると、じっと視線を感じた。

「……？ひゃっ」

　分厚いレンズの中心にすっと切れ目が入った不思議な眼鏡。殿先輩に紹介されて、先輩の隣に立っていたはずの速水先輩が私の顔を覗き込むようにかがみ込んでいた。突然のどアップに思わず先輩の後ろに隠れてしまう。