開演ブザーは永遠に（３） (ページ41)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:16,501 hit

2 ページ41

「ウチのもやってー！」
「うん、いいよ」

　なにやら蝶々結びもどきになっている蜜柑ちゃんのネクタイをほどき、向かい合わせで結びなおす。

「……なんでそっちからも結べんの？」
「殿先輩が結ばせてくれるから」
「へー……」

　ハワ親。別にハワイで教えてもらったわけでも以下略。

「……はい、これでどうかな」

　自分で結んだやつよりも綺麗にできた気がする。「ありがとう！」と蜜柑ちゃんはお礼を言い、緊張した様子でガリバー飴を取り出す。予備のものも含めて、飴は二つ持たされていた。
　私も“↑５”と書かれたガリバー飴の封を切り、おそるおそる飴玉を口に入れる。味は、普通。
　甘いそれを口の中で転がすうちに、身体が熱を持ち出した。骨が軋み、ブカブカだった制服の袖から手が覗き、家具の位置が低くなる。壁にかかる古ぼけた鏡には自分の姿が映った。
　十一、プラス五。つまり十六歳の自分の顔。垂れ気味の眉と目に、肩に届く長さの黒髪。そこまで顔貌は変わらずに、大人っぽさはあまりない。だからこそ、これが自分なのだと納得できるものであったのに、それがなぜか、不安定で気持ち悪い。――グロテスクと形容してもいいくらいに。
　鏡の中の自分が顔をしかめる。それを見ていると怖気が走った。

「み、みかんちゃ、蜜柑ちゃん……」

　とても情けない声が出た。同じくガリバー飴を食べて成長した蜜柑ちゃんを呼ぶ。身長は二十センチ近く伸びたように思えるものの、蜜柑ちゃんも背が伸びているので、いつもと同じく頭を傾けないと視線が合わない。

「……わ、私、変じゃない？」
「変やないよ！その……ウ、ウチも変やない……？」
「全然変じゃない！」

　なんてやり取りをしても、違和感は拭えない。鏡に映り込む自分の姿に嫌悪感すら抱いた。
　怖いもの見たさか、鏡へと吸い込まれそうになる視線を無理やり断ち切って、蜜柑ちゃんを見る。持ってきたリュックに初等部の制服を詰めている最中だった。“そーなん”に備えて非常食も入っているとかで、鞄の中はパンパンだ。
　成長した蜜柑ちゃんを見ていたら、また妙な既視感を覚えかけて、慌てて目を逸らす。もはや床くらいしか見れるものがない。わあ綺麗な木目。埃の被り具合が絶妙ですね。現実逃避極まれり。