開演ブザーは永遠に（３） (ページ5)

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流架君と踊る……というか、ウサギを触らせてもらったあとも、二、三人ほど知らない人を挟んで、今度のペアは棗君だった。フォークダンスには参加しないどころか後夜祭をブッチするんじゃ、と思っていたからめちゃくちゃ意外。
　手を差し出したら普通に取ってくれて、普通に踊ってくれる。……面倒くさそうな顔はされたが。

「き、昨日のことだけど、劇に出てくれて、ありがとう」
「……お前のためじゃない」

　私から話しかけて珍しく会話が成り立った。無視されなかった。野良猫が初めて手ずから餌を食べた感動を覚える。

「う、うん、でも……やっぱり、ありがとう。あの子、これが初めての学園祭だったから」
「……保護者気取りか。くだらねえ」

　冷めた目で棗君が吐き捨てる。棗君にとって学園はいい場所ではない。私のしていることがままごとのような、くだらないものに見えるのかもしれない。
　でも、それでも。

「私……私は、みんなのお姉ちゃんだから」

　弟のような子らに、悲しい思いはさせたくない。

「――」

　ダンスが終わる。次の人のもとへ行こうとして、腕を掴まれた。歳は同じなのに、私のものよりひとまわりは大きな手が、私を引き留める。
　棗君は目を見開いていた。流架君の抱いていたウサギさんよりも、深みのある赤色。

「え、ど、どうしたの？」
「――お前は」

　ダンスが始まる。次のペアである高等部のお兄さんが声をかけたそうにして、でも、棗君の顔を見ると私を飛ばして別のお姉さんと踊りはじめる。
　私たちを置いて、周りは軽やかなステップを踏む。輪の中心で燃える炎が互いの頬を赤く照らした。

「……お前、姉はいるのか」

　――なぜ急に家族構成を知りたがる。

「い、いないよ。私、長女だから」

　なんの調査かわからないけど、正直に答えておく。これ、踊った人全員に聞いてるの？他人の姉フェチ、とかそういうニッチな性癖でも持っているのかな。いや、そんなまさか……ねえ？
　棗君は私以上に不可解な顔をする。やがて、掴んだ腕を離して、フォークダンスの列から離れていった。

「……？」

　謎の質問をした棗君を不思議に、同時に心配しつつ、委員長や心読み君、槙原先生、翼先輩、のだっち、いろんな人と踊る。そして――

「あれ」

　次はユーリ先輩だった。なぜか男子用の衣装を着ていて、やけに顔がげっそりしている。半ばヤケクソ気味に、踊りましょうと伸ばされた手をかわし、なんとなく場所を入れ替わる。