開演ブザーは永遠に（３） (ページ38)

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「……俺、手伝う。佐倉が穴探すの、手伝う」

　翼先輩が蜜柑ちゃんに苦言を呈する中、流架君が静かに言う。それほど大きくないのに芯が通った声は、ほとんど対角線上にいる私の耳にまで届いた。「そんなことしてルカ君にまで罰則とかあったら」とスミレちゃんが制するものの、それには反応を示さず、しっかりと決意を固めた顔だった。

「……俺も乗った」

　次に賛同したのは棗君だった。

「もし穴が見つかれば、うまくいけば最短で奴らを捕まえることができる。学園がバカな動きをする前に、カタをつけるチャンスがあるなら願ってもない」

　学園のバカな動き。学園の裏の仕事を、任務を担う危険能力系を交えた緊急会議。詳細はわからないけど、棗君がまた血塗れになることなんだろうか。
　さっきまでは穴を探すという蜜柑ちゃんに反対一色だった場の空気が、ゆっくりと、確実に変わっていく。
　肩に乗せられた先輩の手の重みを感じながら、大きく息を吸って、吐く。
　――委員長が泣いていた。
　――蛍ちゃんが苦しんでいる。
　蛍ちゃんに向けられた銃口が、今度は自分に向けられるかもしれない。ともすれば、私もアリスを盗られてしまうかもしれない。アリスをなくす。それは、私が私でなくなることに等しい。前に野乃子ちゃんが言っていたように、アリスは自分の一部だ。自分という存在を損なうのは恐怖でしかない。
　それでも、“うまくいけば”、委員長のアリスも、蛍ちゃんの特効薬だって手に入る。みんなが助かる。
　Ｚを追いかけるなんて怖い。外に出るのはもっと怖い。危険だと、無謀だと理解している。どうにもならないかもしれない。でも、友達がつらい思いをしているのに。可能性が転がっているのに。じっとしたままで、なにもかもが終わってしまってから、あの時動いていればって、――そんな後悔はしたくない。

　膝からおりて、自分の足で立って、ちゃんと殿先輩の顔を見る。
　委員長を、蛍ちゃんを助けたい。

「……殿先輩、お願い。穴を探すの手伝って」
「A、お前までなに言ってんだよ……」

　翼先輩が苦々しげに言うが、殿先輩の目は揺れている。