開演ブザーは永遠に（３） (ページ36)

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Ｚ編　噂　後-1 ページ36

「ウチ、その穴を探して、Ｚを捕まえて、委員長のアリスと蛍の特効薬を取り返すねん！」

　使命を帯びた顔つきで蜜柑ちゃんは言い、翼先輩が息を大きく吸い込む。次の行動が予想できて、急いで両耳に手のひらを押し当てる。

「できるわけねーだろ！」

　ぴったり耳を塞いでいても、翼先輩の怒鳴り声はキーンと頭に響いた。

「たった今勝手なことして騒動起こした張本人だろうがお前は！おい、殿！その気にさせた責任取ってあんたちゃんと言い聞かせろよ！」

　ガミガミと蜜柑ちゃんを叱る翼先輩はちょっとお父さんっぽい、と思う。お兄さんらしい殿先輩は「あー……」とため息を吐き出しながら私を抱えて立ちあがり、蜜柑ちゃんの側にしゃがみ込んだ。

「チビちゃんごめん。さっきの穴の話、全部ウソ」

　ガーン、なんて効果音がつきそうなくらい蜜柑ちゃんはショックを受ける。かなり大雑把な嘘だったのに、あっさりと殿先輩の言葉を信じたようだ。これで一件落着――とはいかずに、蜜柑ちゃんは大きな目に涙を浮かべて、ぐすぐすと鼻を啜る。しゃくりあげつつもなんで、と問う姿はこれ以上なく哀れを誘う。
　ああ、これは……と思えば、予想どおり殿先輩がほだされてしまった。「俺にはこの子を騙すことはできん……」殿先輩が蜜柑ちゃんをぎゅっと抱える。先輩と蜜柑ちゃんにサンドされてちょっと苦しい。
　割と呆気なく陥落しちゃった殿先輩を翼先輩は役に立たねえなみたいな目で見くだして、さっきよりも怖いオーラを漂わせる。

「とにかくダメだ！アホなこと考えんな、チビのくせに！」

　再び翼先輩のお説教が始まり、私だけを抱えて殿先輩は立ちあがる。さっきと同じように椅子に座って、私も先輩の膝に座る。それから、はあ、とまたもやため息をついた。自分の失言を悔いるように、さっきから何回も小さなため息をついている。
　蜜柑ちゃんは翼先輩のお説教に「チビ差別やー！」と返し、そして心読み君と一緒になってなーなー、なーなーなー、と殿先輩に繰り返し協力を呼びかける。心読み君は蜜柑ちゃんの真似をしているだけに見えなくもない。