開演ブザーは永遠に（３） (ページ24)

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Ｚ編　紛失-1 ページ24

殿先輩が学園に帰ってきてからすぐ、委員長も里帰りより戻ってきた。おかえりー！よりも先におみやげらー！との反応をくらい、若干泣きべそをかきつつもトランクいっぱいに詰まったお土産をみんなに配ってくれる。
　化粧箱に入れられたお高そうな……というか、実際に“高級”と書かれた明太子と、博多名物らしい、一見なにかの素材にも見える、完成品とは思えない“おきゅうと”なるものを蛍ちゃんに。明太子抱き枕と明太子帽子は心読み君、キツネ目君に。博多限定だという着せ替え人形はスミレちゃんに。
　私もお土産配布列に並んだら、足元からペーペー聞こえてきた。鮮やかな青色、丸くてつるりとしたフォルム、頭についたアンテナ。何次元だかのポケット。高さ五〇センチくらいのその子は、蛍ちゃんの作ったペンギンロボットことペンギーだ。
　夏のあたりに作って、イタリアにいる蛍ちゃんのファンに送り届けたはいいが、なんでも蛍ちゃんを恋しがって“夜泣き”をするらしく、可哀想に思った購入者が最近返品してきたのだという。夜泣きするロボットってすごいね。
　そんなペンギーは自分もお土産を受け取るつもりのようで私の前に並んでいる。小さい子が周りの真似事をしているみたいでかわいいな、なんて思っていたら、お土産を受け取ったペンギーを蛍ちゃんがむんずと掴んで怒る。
　でもペンギーが貰ったお土産は蛍ちゃんの手の中にあるし、普通に開封して食べちゃってる。返却しないんですね……。

「はい、Aちゃんはこれだよね」
「うん！ありがとう、委員長」

　私が頼んだお土産は、白餡の中に練乳が混ぜられた、甘くておいしいお饅頭だ。福岡といえばやっぱりこれ。
　受け取ったお菓子を抱えて机に座ると、前からじっと視線を感じた。

「…………」
「…………」

　一口サイズの小さなバウムクーヘンの穴に羊羹をつめたお菓子をもさもさと食べながら、蛍ちゃんがこちらを――正しくは、私が貰ったお饅頭を見る。ガン見する。

「……と、トレード……」
「……まあ、そんなとこね」

　六個入りのお饅頭のうち、一つを差し出すとそれをすぐに開封して、またもさもさ食べながら、私の手にペンギーから取ったお菓子を一つ乗せる。
　交換しただけなのにこの謎の敗北感はなんだろう……。

「A、蛍に勝とうと思ったらあかんで……」
「そういうわけじゃ、ないんだけど……」

　勝ちたいわけではないし、勝てるとも思えない。蛍ちゃんには謎のツワモノ感がある。