Ｚ編 開幕-1 ページ18
十一月になり、委員長に優等生賞が授与された。一人だけ里帰りすることに罪悪感を滲ませつつ、自分が学園に入ったあとに生まれた妹にやっと会えると、とても嬉しそうに外の世界へ出ていった。
――そして、そんな嬉しい出来事とは対照的に、学内では“アリス紛失事件”について騒がれるようになっていた。アリスの寿命――子供の時しか使えないとか、細く長く使えるとか、一度にたくさん使えるとか、はたまた命を削ってしまうだとか。そういうタイプとは関係なく、なんの前触れもなく突然アリスが消えてしまうらしい。
初めて事件が起きてから二週間足らずで被害者は六人にまで増えたそうだ。被害者はいずれも外で活躍中の大人で、学内で紛失した人はいないが、なにかあればすぐに先生に報告するようにと鳴海先生から説明があったばかりだった。
「怖いね、アリス紛失事件」
「せやなあ……」
特力で蜜柑ちゃんと喋る。教室は一番乗りで、翼先輩も、のだっちも、誰もいなかった。
さっきから蜜柑ちゃんはどこか上の空だ。紛失事件以外にも気を取られる出来事があったのか、なにやら難しげな顔をしている。ぎゅっと寄った眉間を指でほぐしつつ特力のみんなを待っていたら、立てつけの悪い扉が乱暴に開かれた。
「お久ーっ！」
軽やかな調子の声が教室に響く。肩を揺らして振り返れば、長い黒髪が見えた。切れ長の目がこちらを見て細まる。――ずっと、ずっとずっと会いたかった人。
「殿先輩！」
「おーっ、久しぶりだな、A。あいかわらず小っせえなー。はやくおっきくなれよー」
「えへへへー」
殿先輩の腰に飛びつくとそのまま抱えられて、ぐるぐる回される。夏休みが終わってすぐに仕事に行って、それきりだったから約二ヶ月振りの殿先輩だ。懐かしくて、嬉しくて、ぎゅっと首元に抱きつく。私の背中にも手が回り、すり減ったものが満ちるような安心を覚えた。
「ずっと先輩いなくて寂しかったよー、学園祭も帰ってきてくんないし……」
「ごめんなー、寂しい思いさせて。来年は一緒に回ろうな」
「うん！ ねえ、お仕事はもう終わったの？ 今回はいつまで学園にいるの？ いっぱい一緒にいれる？」
「ああ、終わったっつーか――」
「な、なあA、その人誰……？」
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作者名：きざし | 作成日時：2020年12月30日 2時
