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「……翼先輩、元気だった？ ……なにか変な様子じゃなかった？」
「……うん、あいかわらず元気そうだったよ」
私の問いに一拍置いてから答える。それが気になって、チラッと窺ってみても、ただ眉を下げて笑うだけだった。追求してもさらにその顔を申し訳なさそうにするだけだろう。受け流すのが得意というか、なんというか。
「体育祭では頑張って活躍するらしいから」
「……うん……」
美咲先輩も同じことを言っていた。
それでも一ヶ月も全く顔を見せてくれないのは……
「翼がいなくて寂しい？」
「……うん、寂しい」
こくりと頷いて答える。
初等部の時みたく校舎を移動しなくていいから楽だ、なんて言って翼先輩は平日の放課後もほとんど特力にいたのに、その姿が突然消えてしまった。
殿先輩が仕事でいない時に翼先輩たちがしてくれるように、先輩は私にたくさん構ってくれるけど、それでも殿先輩は殿先輩で、翼先輩は翼先輩だ。代わりはいない。
「……次に翼に会ったら寂しかったって抱きついてやればいいよ。あいつ、そういう素直な気持ちに弱いから」
「そうなの？」
「うん。ほっぺにキスでもしてやれば面白い顔が見れると思うよ」
「……キスは恥ずかしいなぁ」
そう呟くと要先輩は楽しそうに笑った。こういう茶目っ気も備えてるところを見ると、やっぱり翼先輩の親友なんだなぁって実感する。
「翼の話もいいけど、Aちゃんの話も聞きたいな。体育祭の練習はどう？」
「う……ん、いい感じ、とても。すごく好調」
まさかその練習で入院中とは言えまい。聞こえのよさそうな言葉をたくさん並べたというのに、要先輩はまた私の頭を見て、「……気をつけてね」と言った。なぜバレた。
「あ、要先輩は、その、体育祭は……」
「残念だけど今年は無理そうかな。でも、実況は観れるし……それに、僕は出ないけど、代わりにちょっと出てくれる子がいるから」
「……？」
また楽しそうに、そしてどこか悪戯っぽい顔をしてミルクティーを飲む。
代わりって一体どういうことだろ。
…………もしかしてベアが白組として出ちゃったりしますか……？
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作者名：きざし | 作成日時：2020年9月23日 23時
