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「蜜柑ちゃん、もう泣かないで……」
「佐倉……」
棗君委員長と蛍ちゃん流架君も一緒にベア蜜柑ちゃんを慰める。この二人が心配そうな顔でぬいぐるみに話しかける姿を見るとなんかムズムズする。特に棗君委員長。ガン見してると流架君棗君からの視線がチクチク刺さるので、ちょっぴり目を逸らす。
いや、なんというか……その、棗君の表情筋もそんなに動くもんなんですね……。
「おい」
普段の棗君の声と比べると、少し高く、けれど、元の流架君よりは低い、鋭さを帯びた声。
「この胸糞悪い状態……いつまで我慢させる気だ」
きちんと結ばれていたリボンをほどき、ブラウスのボタンも何個か外して制服を着崩した流架棗君はいかにも機嫌悪そうにふんぞりかえる。流架君なのに目つき悪い。聖杯の泥でも被ったのかという有様。クラスメイトの何人はそれを見てぽーっと頬を赤く染めている。
「うーん……それが、当のテロ犯は捕まったんだけど……」
体育祭が終わってから、風紀隊にいたずらをしかけるテロ犯なるものが横行していた。今回私たちはそのいたずらに巻き込まれたわけであり、元凶であるテロ犯二人は地べたに正座しながら泣く。そして、とあることを告白した。
「――特効薬を捨てた!?」
シャッフル香付属の薬、飲めば入れ替わった魂が元に戻るそれを早々に破棄したらしい。二人は被り物をしたままぐすぐす泣いてこんなことになるとは思わなかった、今では反省してるなんて言葉を重ねるが、被害者一同それで許すほど甘くない。特に棗君。
おのおの別人の身体に入ったまま、くろーいオーラを漂わせ始める。
「ま、まあまあ! “シャッフル”の効き目が切れれば自然に元に戻るから!」
と鳴海先生が仲裁する。でもそのあとぽつりと「約半日から一日くらいで……」と聞き流せない言葉が呟かれた。
最低でも十二時間は心読み君の身体に入ったまま。そして私の身体にはいまいち意思疎通の図りづらいベアが入っている。人としての尊厳を保ったまま無事に明日を迎えられるかどうか、非常に心配になってくる。
「今は仮の体に魂が入り込んだ不安定な状態で、体や心にふりかかる衝撃なんかで魂が体から離れやすくなってる状態だから、くれぐれも気をつけて! とにかく、自然に元に戻れた時のために君たちは常に離れずに――」
無表情な蜜柑ちゃん蛍ちゃんが、「先生」とその説明に割り入るようにした。
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作者名:きざし | 作成日時:2020年9月23日 23時