開演ブザーは永遠に（１０） (ページ47)

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シャッフル香-1 ページ47

――なんで、こうなったんだろう。

　萎えた足に力を入れて、おそるおそる立ちあがってみる。
　いつもより明らかに違う視線の高さ。周りから向けられるものは、珍獣でも見る眼差し。教室の窓に映り込む“自分”の顔は、何回見ても慣れることはない。普段はポーカーフェイスの塊であるこの顔も、今は私の感情に従っていかにも不安そうなものになる。

「……だいたい、状況は飲み込めました……。どうやらテロ犯がしかけたこの“シャッフル香”で、匂いを嗅いだ皆さんの魂が一時的に入れ替わるという事態に陥ってしまったようです」

　体調を崩したとかで、この前からずっとお休みをしていた鳴海先生が、“みんな”を見渡しながら言う。その顔が青いのはきっと体調不良のせいだけではないのだろう。

「……今井さんは蜜柑ちゃんに。正田さんは飛田君に。棗君はルカ君に、ルカ君は蛍ちゃんに」

　みんなそれぞれ、見たこともないような表情を浮かべている。鳴海先生が改めて状況を整理しても、カオスであることには変わりない。どうしよう、頭痛が痛い。

「飛田君は棗君に、心読み君は正田さん」

　鳴海先生の目がこちらへと向いた。

「……Aちゃんは、心読み君に」

　私、心読み君になっちゃいました……。

　ことの発端は十分前に遡る。
　移動教室のため、教材やら筆記用具やらをまとめて、さあ移動しようと席を立った瞬間、フローラルな香りがどこかから漂ってきた。わー、いい香り～なんて呑気なことを思ってたらばったり意識を意識を失ってしまった。睡眠不足が祟った末の強制終了かと本気で思った。しんでしまうとはなさけない。
　でもまあ本気でお陀仏になったわけではなく、きちんと目を覚ますことができた。ただ、その時にはすでに、私は心読み君の身体へと入ってしまっていたのだ。ツンツンと跳ねた茶色の髪に、いつもは笑顔で固定されている顔。ただし他人の心は読めない。アリスは魂に付属するの？心の読めない心読み君。今の私は何者でもなくなってしまう。哲学かな？

「そして…………おそらく、蜜柑ちゃん」

　床に座り込んだままプルプルと震えるテディベア。それが勢いよく立ちあがった。

「なんでーっ！？なんでウチベアになってんのーっ！？」

　きぇあぁしゃべったぁぁー……。
　要先輩の説明では、初めてアリスで作ったぬいぐるみだから喋る機能はついてないとかだったのに。ならこれは魂が喋ってるってこと？それちょっと怖い。