悪夢-1 ページ43
「――A。……A、おい」
「……ん……ぇ……?」
身体を揺さぶられて目を覚ます。かすれた視界を、瞬きを繰り返して正常に戻す。見慣れた特力の教室と殿先輩の顔があった。先輩のお膝の上という安定の位置に収まったまま眠っていたらしい。
頭が覚醒しないままにぼんやりとあたりを見渡す。窓からは落ちかかった夕日が見えた。電気のついていない教室は仄暗い。置いてある柱時計は六時どころかほとんど七時を指している。
「起きたか?」
「……ん……おき、たぁ……」
特力にきてからほとんど眠っていた。これでは眠りにきているようなものだ。
もう他に残っている生徒はいない。風紀隊すらも教室から去っている。私たちも早く帰らないと。そう思っているのに、どうしても眠たくて大きなあくびが出てしまう。
「……お前、最近ちゃんと眠れてんのか? こっちきてもだいたい寝てるし」
「ん……う……」
先輩の指摘にぎくりとする。他の人にも言われたことだ。変に心配をかけたくないから適当にごまかして、まあ、あまりうまくいかず。みんなの中では夜更かしっ子になっちゃってるかもしれない。
でも、今は先輩しかいないし、ちょっとお話ししてみよう。
「あのね、怖い夢、見るの……」
「夢?」
春休みのあたりの蜜柑ちゃんみたく、ほとんど毎晩のように怖い夢を見る。
一晩に一度は必ず目が覚めるし、そこから朝まで眠れないこともざらにある。夜になってもまたあの夢を見ちゃったらどうしようと不安が沸いて、眠たくても怖くてなかなか寝つけなかったりと安眠とはほど遠い日々だ。もちろん、セントラルタウンには睡眠薬が売っている。ちゃんとしたお薬から悪戯グッズまで選り取り見取りだ。とはいえ、薬を服用するのはそれこそおおごとって感じがして気が進まない。
ろくに解決策も見出せず、日中はいつもかすかに眠たい。授業中は頑張って起きていても、先輩が側にいると気が緩んで寝てしまう。
「なんだ、お化けでも出てくんのか?」
「そ、そんなんじゃないもん」
薄い笑いを吐き出した先輩を非難がましく見ると「どんな夢なんだ?」と続きを促される。
一度口を開き、また閉じて唾を飲む。思い出すだけでざわりと総毛立ち、衣替えも終わったというのに寒気がした。
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作者名:きざし | 作成日時:2020年9月23日 23時