開演ブザーは永遠に（１０） (ページ36)

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「――蜜柑ちゃん！！」

　落ちる、とどこかから聞こえた気がした。
　すり抜けてしまった事実を認めたくなくて、ほとんど悲鳴をあげながらもがくように手を伸ばすけど、なにも掴めずにただ宙をかく。時間にすると一秒にも満たない光景がやけに長い。吹き出した汗が垂れるのが目に焼きつく。
　止まれと願い、真っ白な頭のままアリスを使う。――止まらない。噛み合わない歯の根ががちりと鳴って頭の中で響く。

　あっという間に落ちていく身体は、突然停止して、そこからゆっくりと崩れ落ちた。

「――っ、は、ぁ……」

　地面に血が広がる気配はない。詰めていた息を吐く。
　上からも下からも、悲鳴と泣き声が聞こえた。
　倒れた蜜柑ちゃんの周りに多くの人が駆け寄って、すぐに私たちも地上へとおろされる。知らずのうちに口に溜まった唾を飲み込むと、右手がじわじわと痛みを訴え始めた。
　止まない喧騒の中、応援合戦は中断された。

　気絶した蜜柑ちゃんともども医務室へと運ばれた。私の右腕は骨が折れてしまったらしく、今井先輩がアリスで治してくれている。とはいえ、完治するまで痛みが消えるわけではない。それどころか急激に骨が再生する痛みが生じて、痛み止めを飲んでも額には脂汗が浮かんだ。
　右手だけを今井先輩の方へと伸ばしたままベッドに座り、同じようにベッドに腰かけた殿先輩にしがみついて痛みをこらえる。

「……っう……っ、は、ぁ……」
「A――」
「いい……アリスつかわなくて、いいから……」

　この後の騎馬戦に殿先輩は出場する。だから、こんなところでアリスを使わせてはいけない。
　緩く首を振って、さらに頭を押しつける。

「……今井、もっと効果の強い痛み止めはないのか」
「さっき与えた薬がこの年齢に使える鎮痛剤の中で一番効果のあるものだ。これ以上量を増やせば副作用が生じる」

　歯噛みする音が近くで聞こえた。顔に滲む汗を先輩の指が拭う。