開演ブザーは永遠に（１０） (ページ3)

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入院-1 ページ3

頭を思いっきりごっつんして鳴海先生に怒られた。
　飛んできたあの支柱をピタッと止めるのが理想だったのに。アリスの発動ムズカシーね。でも鳴海先生は怪我してないし、私も様子見で一日入院するだけで済んだので重畳、だと思ったのだけど。鳴海先生を悲しませてしまった。次は失敗しないようにしないと。

　朝は検査やらなんやらでお医者さんのところに行って、それが済むと暇になる。突然の入院だったから暇潰しの道具なんてこれっぽっちも持ってきていない。今日は普通に授業のある日だからお見舞いにくる人もいないし、病室に置いてあったテレビだって気になる番組はなかった。

　なにもない部屋でじっとしていることは結構苦痛で、散歩でもしようと病院の中を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「……Aちゃん？」

　振り向くと、そこには要先輩がいた。私と同じ入院着を着ている。

「あ、要せんぱ……？」

　なんだろう、元々線の細い人ではあったけど、全体的に前よりも細くなってるような気がする。着ているものが制服じゃなくて入院着だからかな。

「どうしたの？入院中……？どこか悪いの？」
「ううん、ちょっと頭ぶつけただけで……お昼過ぎにはもう帰るの」

　目線が私の頭のあたりに注がれる。でも、アリス治療をきちんと受けて、今はタンコブすらも残っていないのだ。

「大丈夫だよ。綺麗に治してもらったから」
「それならいいんだけど……でも、気をつけてね」
「……うん」

　要先輩にまで心配されてしまった。頭は少しばかり位置が悪かったな。

「お昼まで時間あるのかな？よかったらお茶でもどう？」

　目で示されたのは病院内にある小さなカフェだった。カウンターで注文を済ませて、飲食スペースまで自分で運ぶセルフサービス式。

「う…………あ、私、お財布持ってきてない……」

　頷きそうになったけど、手持ちどころか病室にすら財布はない。制服やら着替えは支給されたものの、それ以外に私の荷物はない。教室に置きっぱなしになっちゃった鞄は誰かしらが寮まで持って帰ってくれたと信じたい。

「僕がご馳走するよ」
「え……」
「一度後輩に奢ってみたかったんだ。……嫌かな？」
「や、やじゃない」

　春風でも吹きそうな微笑みに貢ぎたい気になるけど奢られる不思議。