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 中に続く道には、照明の類がいっさいなかった。開けた扉から伸びる光も、すぐに途切れて先まで見通せない。暗いとかそんなレベルではなく、もはや、闇と表現するのが一番ふさわしい気がする。先生がズボンの後ろポケットにねじ込んでいた懐中電灯が唯一の明かりだ。
 蝶番をいやに軋ませながら、外に通じる扉を閉めると通路はますます闇を深める。外はあんなに明るくて、暑かったのにここは真っ暗で肌寒い。その気温差が背筋を粟立たせる。

「……先生……手、繋ごー」
「なにお前、怖いの?」

 からかう調子で先生が笑う。

「……怖いもん」

 返事も待たずに先生の腕に手を絡ませると、「怖がりだな」ってまた先生は笑った。軽く唇を尖らせつつ、先生のいない左隣が妙に怖くて、気を紛らわせようと繋いだ手やら、先生の腕時計なんかを弄る。

「……ねえ、私に会わせたい人って誰なの? どこにいるの?」
「んー……お前、あの噂知ってるか。花姫殿の地下にいるお化けの話」
「あ、ナル先輩が話してたよ。花姫殿のね、侵入者を捕まえるとか、触ったら身体が腐っちゃうとか」

 聞きたいともなんとも言ってないのに楽しそうに話し出して、初等部のみんなをさんざん怖がらせたものだから柚香先輩に怒られていた。
 ……あれ、花姫殿の地下ってここだよね。
 つい最近聞かせられた怪談話の舞台に、まさに今立っているのだと遅まきながら思い至り、ぞわぞわと寒気がした。先生も私も、“侵入者”に該当しているんじゃなかろうか。お化けに追いかけられちゃったらどうしよう。先生、私を抱っこして逃げてくれるかな。もういっそ今から抱っこしておいてくれないかな。そのほうが効率的ってやつだ。
 一人頷き、おねだりしてみようかと先生を見あげると、私の願望になんてまったく気づいてない素振りで、「ったく、あいつは……」と、おそらくはナル先輩へ向けてのため息をつく。

「……今から会いにいくのが、そいつだ」
「え」

 ぴしりと身体が固まった私に、先生は説明する。
 とても強力な“腐食のアリス”を持つ子で、何年か前に入学して以来、ずっと花姫殿に――結界の張られたこの場所に閉じ込められているのだと。先生がここに通い、アリスの特訓をするうちにその子はいくらか制御を覚えたらしい。

「……怖いか?」
「――ううん。怖くない」

 お化けは怖いけど、その子はお化けじゃないから。そう呟くと、先生は懐中電灯を持ちながら
私の頭を撫でて――

「あ、そこ段差あるぞ」

 踏み出した足がガクンと沈み、慌てて先生の腕にしがみつく。

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きざし(プロフ) - ユイさん» 温かいお言葉ありがとうございます!再熱していただき嬉しい限りです…!これからもゆったりと更新をしていきますので、どうぞのんびりお付き合いいただければと思います。改めてコメントありがとうございました! (2020年6月29日 19時) (レス) id: d2df0bfcc2 (このIDを非表示/違反報告)
ユイ(プロフ) - いつも更新お疲れ様です。この作品を読んで学アリ熱が再熱するくらいに楽しんで読ませてもらっています… 夢主ちゃんの存在、先生たちの関係が気になって気になって仕方ありません!大変だとは思いますが更新楽しみにしております。長文失礼しました。 (2020年6月29日 3時) (レス) id: f59a3694e1 (このIDを非表示/違反報告)
きざし(プロフ) - ユイカさん» コメントありがとうございます!これからもどんどん更新頑張りますので、どうぞゆるりとお待ちくださいませ〜! (2020年6月15日 19時) (レス) id: d2df0bfcc2 (このIDを非表示/違反報告)
ユイカ(プロフ) - 初めて読んでみたんですけどとても面白くて気に入りました!更新楽しみにしてるので頑張ってください! (2020年6月14日 20時) (レス) id: b470749ec2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きざし | 作成日時:2020年5月27日 22時

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