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8-殿内 ページ18

 尚も食いさがると、櫻野の瞳に冷たい光が宿った。右肩に手が乗せられる。静かに、しかし、痛みを感じるほどの強さで指が沈み込む。

「……アリスを使って、君を北の森へ置き去りにしてやってもいいんだが」

 いっそう低く、潜められた声は真剣そのものだった。
 肩を押されるがままに部屋から出ると、すぐさま扉が閉められ、内鍵のかかる音がした。
 不自然さを気取られても構わない。一刻も早く他人(・・)を締め出したい。そんな気持ちがありありと感じられた。
 これ以上ここに突っ立っていてもどうにもならないと理解していても、足裏が床から離れない。動けずにいると、扉の向こうからコツ、と叩く音がした。早くこの場を離れろというメッセージ。
 ゆっくりと踵を返し、どこか現実離れした想いすら抱きながら、自分の部屋の二倍は長い廊下を歩む。控えめな音を立てて、玄関の扉が開かれた。部屋の外を窺いつつ、素早い動きで中に滑り込み、扉を閉める。部屋に入った時の静けさとは裏腹に、乱雑な動作で足を振って草履を脱ぎ捨て、揃えることなく部屋にあがった。

「殿、第二刷も全部ばら撒いてきたぞ。美咲もすぐにこっち戻ってくるって」

 戻ってきたのは翼だった。今井たちが移動した部屋からの物音を聞きつけ、そちらに目を向ける。

「部屋、移ったのか?」
「……ああ」
「……蜜柑は治ったんだよな?」

 蜜柑が回復したことは、すでに携帯電話を使って翼と美咲に連絡していた。

「ああ……A、も……治った」

 翼の顔が一瞬安堵にほころび、すぐに眉が寄る。だったらなんであんたは暗い顔をしてるんだと、そんな声が聞こえてくるようだった。

「あいつが……Aが、記憶喪失に」
「……は?」

 言いながらも、あれは本当に記憶喪失なのかと疑問が湧く。錯乱状態といわれたほうがまだ納得がいく。Aが自分の手を弾いた。Aが自分を拒んだ。あり得るはずがないのに。

「……Aは、奥の部屋か?」
「行くなよ」

 すぐにでも部屋へ押し入りそうな後輩を制す。

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きざし(プロフ) - ユイさん» 温かいお言葉ありがとうございます!再熱していただき嬉しい限りです…!これからもゆったりと更新をしていきますので、どうぞのんびりお付き合いいただければと思います。改めてコメントありがとうございました! (2020年6月29日 19時) (レス) id: d2df0bfcc2 (このIDを非表示/違反報告)
ユイ(プロフ) - いつも更新お疲れ様です。この作品を読んで学アリ熱が再熱するくらいに楽しんで読ませてもらっています… 夢主ちゃんの存在、先生たちの関係が気になって気になって仕方ありません!大変だとは思いますが更新楽しみにしております。長文失礼しました。 (2020年6月29日 3時) (レス) id: f59a3694e1 (このIDを非表示/違反報告)
きざし(プロフ) - ユイカさん» コメントありがとうございます!これからもどんどん更新頑張りますので、どうぞゆるりとお待ちくださいませ〜! (2020年6月15日 19時) (レス) id: d2df0bfcc2 (このIDを非表示/違反報告)
ユイカ(プロフ) - 初めて読んでみたんですけどとても面白くて気に入りました!更新楽しみにしてるので頑張ってください! (2020年6月14日 20時) (レス) id: b470749ec2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きざし | 作成日時:2020年5月27日 22時

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