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「……兄じゃない。僕も、今井も。二人とも本人だ」
「え?」

 秀一君とよく似たお兄さんが、眉を寄せ、怪訝な顔つきで言う。

「……ほ、本人って、どういう……」
「……そのままの意味だ。僕が、櫻野秀一だ」
「…………え」

 僕が櫻野秀一。お兄さんが、櫻野秀一……秀一君?
 なにを言っているのか、お兄さんがなにを言いたいのかがわからない。ぽかんと口を開けたまま次の言葉がなかなか出てこない。
 たしかにお兄さんたちは秀一君と昴君にそっくりで、二人が成長したらこうなるのかな、とは思うけど、いくらなんでも本人だなんて無理がある。あの二人はまだA組で、歳も二桁に届いていない小さな子供なのだから。

「ほ、本人、なんて、そんなわけ……だって、秀一君も、昴君もまだ五歳くらいで……お兄さんたち、高等部の人じゃ……」

 考えた端からぽろぽろとこぼすように呟き、思い出すものがあった。最近、“奇人の店”で発売されたガリバー飴。あれは身体を成長させたり、反対に幼くさせる不思議な飴だ。特力でも、先生に食べさせてみようってちょっと盛りあがっていた。
 ああ、そうか、なら、きっとそうに違いない。

「あ、これ、もしかしてドッキリ? 二人ともガリバー飴食べてるんだ。先生がドッキリ大成功って、笑いながら入ってくるんでしょ。ちょっと前に柚香先輩が騙されたばっかだもん。いくら私でもわかるよー」

 くすくす笑ったら、つまんねーって先生が入ってくる。ナル先輩も一緒かもしれない。発案者はいったい誰なんだろう。わざわざ知らない人たちをかき集めて、昴君たちも巻き込むなんて単なるイタズラにしては凝りすぎだ。びっくりしたし、それなりに怖い思いもしたのだからお詫びとしてセントラルタウンにでも連れていってほしい。
 そんな、呑気ともいえる予想を大きく裏切って、空気はいっそう冷え込んだ。
 昴君と秀一君の顔がはっきりと強張る。訝しげな目から一転、信じがたい、異物を見る目を私に向ける。

「……どう、したの? なんで、そんな顔するの……? なんで、そんな目で見てくるの……?」

 顔に浮かべた笑みを保てなくなる。不安が緩やかに込みあげ、瞬く間に根を張り巡らせる。ささやかな違和感が膨れていく。遊んで、と二人して駆け寄ってきていた子が、こんな目を私に向けるだろうか。

「ほ、ら……も……バレちゃったんだから、飴も、食べなくていいんだよ? 一緒に先生のとこに行こ、ね?」

3→←目覚め-1



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きざし(プロフ) - ユイさん» 温かいお言葉ありがとうございます!再熱していただき嬉しい限りです…!これからもゆったりと更新をしていきますので、どうぞのんびりお付き合いいただければと思います。改めてコメントありがとうございました! (2020年6月29日 19時) (レス) id: d2df0bfcc2 (このIDを非表示/違反報告)
ユイ(プロフ) - いつも更新お疲れ様です。この作品を読んで学アリ熱が再熱するくらいに楽しんで読ませてもらっています… 夢主ちゃんの存在、先生たちの関係が気になって気になって仕方ありません!大変だとは思いますが更新楽しみにしております。長文失礼しました。 (2020年6月29日 3時) (レス) id: f59a3694e1 (このIDを非表示/違反報告)
きざし(プロフ) - ユイカさん» コメントありがとうございます!これからもどんどん更新頑張りますので、どうぞゆるりとお待ちくださいませ〜! (2020年6月15日 19時) (レス) id: d2df0bfcc2 (このIDを非表示/違反報告)
ユイカ(プロフ) - 初めて読んでみたんですけどとても面白くて気に入りました!更新楽しみにしてるので頑張ってください! (2020年6月14日 20時) (レス) id: b470749ec2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きざし | 作成日時:2020年5月27日 22時

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