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「あ、そうそう。クラスに棗とかいうえらそーなやつおったんやんかー」
脈絡もなく話が棗君へと転がる。棗君については委員長も口が重めで、私もあんまり話せることはない。蛍ちゃんが綺麗な手つきで、スピードは早めにブドウを食べながら、ぽつぽつと話す。「この学園を憎んでいる」「とにかく得体が知らないわ」「よくない噂も多いし」……ちょっと入りづらい話。近くに寄ってきたリスに、ほら、怖くない。ってやろうとしたら、最後に残しておいた大きめの栗を奪われて、すたこらさっさと逃げられた。ヨクバリなリスだった。
「……いつだったか、中等部で“あいつは人殺しだ”って噂が流れたことがあったわ」
――人殺し。
蛍ちゃんの口からさらりと放たれた言葉が深い沈黙を生み出す。気温はまだ高く、すぐ近くに焚き火もあるというのに、ひやりとした空気が流れた。
「う……友達のこと、悪く言っちゃダメだよ……」
ちぐはぐな伝達力と心貧しい寛容さでは場の空気を悪くしてしまうと思いきや、蛍ちゃんは意外も意外、あっさりと謝罪した。
「……別に、あいつとは友達じゃないけれど……まあ、たいした確証もないのにする話じゃなかったわね。妙なこと言ってごめんなさい」
もしかしてそちらの寛容さはオカン級だったり？ 単なる処世術かもしれないけどちょっぴり感動。
委員長や蜜柑ちゃんがポカンと蛍ちゃんを見て、それから私を見る。普通に恥ずかしい。
「……なんか、Aってすごいなー。さっきもあのくるくるパーマ相手にビシッと言い返してたし」
くるくるパーマとはスミレちゃんかな……。でも、言い返していたというなら蜜柑ちゃんの啖呵のほうがよっぽどかっこよかった。
「そ、そんなことないよ。ただ、その……いつか学園を卒業すると、きっとアリスを持ってる人よりも、アリスを持たない人と関わるほうが増えるの」
卒業。自分で言っておきながらも、まだまだ遠い未来の話だから、やっぱり実感が湧かない。
「……その時に、アリスじゃないから……って、周りを見くだしてたら、ひとりぼっちになっちゃう、みたいな話を……誰かが、してたような……」
最後がもにゃもにゃと締まらなかった。ソースは謎。鳴海先生とかかな。うまいことまとめられなくて恥ずかしくなる。
「えと……ほ、ほら、早く片づけて高等部に行っちゃおう！ ね？」
関西人相手にオチのない話をしてしまった。で、オチは？ って言われる前にみんなを急かしてごまかす。
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作者名：きざし | 作成日時：2020年4月6日 21時
