開演ブザーは永遠に（１） (ページ8)

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かわいー！と、ぬいぐるみを持ちあげたり、どう操作されているのかとリモコンを探したり。無邪気にあれこれおもちゃにしていた蜜柑ちゃんが、いきなり上空へと吹っ飛ばされた。

「蜜柑ちゃーん！」

　物理的な上昇と下降が激しい子だ。確実に本意ではない。
　ぬいぐるみは、茂みに堕ちた蜜柑ちゃんに追撃をしかける。もふもふの腕のどこからあんなに鋭い拳が繰り出されるのだろう。委員長が半泣きのまま、悲鳴に似た声で、ぬいぐるみ――“Ｍｒ．ベア”の説明をする。もっと早くに説明してあげて、というツッコミはそのまま私にぶっ刺さる。
　一方で、まだ殴られている蜜柑ちゃん。正直、痛いのは嫌だ。とても嫌だ。でも、ここで見捨てるわけにもいかない。猛攻を受けてぐったりと倒れ込んだ蜜柑ちゃんと、ベアの間にどうにか割り入る。膝が崩れ、芝生のちくちくとした感触が脚を撫でる。どういう原理なのか、ベアの目のボタンはキランと輝いて私を見据えた。

「――ッ！」

　強く歯を食いしばる。蜜柑ちゃんと同じに容赦なく殴り飛ばされると思いきや、なぜかベアはファイティングポーズのまま動きを止めた。楕円のさし目に糸の鼻口。固定された表情からは、気持ちなんてほとんど読み取れない。あえていうなら、迷っているような。もっといえばとまどっているようだった。

「え、な、なに……？」

　まさか、友情に感動したとか？それを見たかった的な？意外に青春ドラマなノリが好きだったり。あんぐりと口を開けていると、冷静な蛍ちゃんがどこからか汲んできたバケツの水をベアに引っかけて、見た目どおり布製らしいベアはぐしょぐしょになって地に沈んだ。
「そのボロゾーキンを車に乗せて」、との蛍ちゃんの指示に従い、ボロ雑巾のごとくくたくたになってしまった蜜柑ちゃんを委員長と一緒に抱えて運び、蛍ちゃんの発明品、キリンカーに乗り込む。

　ガタゴト、ガタゴト、車輪が回り、ゆっくりながらもキリンカーは走り出す。しばらくすれば、びしょ濡れになったベアの姿は見えなくなった。

「こ、怖かったあ……」

　意識を取り戻した蜜柑ちゃんが、うがー、と大声で叫ぶのに突っ込む気力もない。半ば呆然としたまま、雄大なものでも見ていようと、森の景色を眺めて心を落ち着かせる。自分のちっぽけさが理解できるってやつ。ちょっと自虐的か。なんて思っていたら、話を振られた。

「なー、Aはなんのアリス持ってるん？」
「あ……私は、時間操作のアリスだよ」
「じかんそーさ？なんかめっちゃすごそうやん！」