開演ブザーは永遠に（１） (ページ7)

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北の森　前-1 ページ7

「あのっ、私も一緒に行くよ！」

　長く伸びる廊下、離れた場所に三人の背中が見えた。蛍ちゃんは同行というより、連行されているふうだ。追いかけて協力を申し出ると蜜柑ちゃんの顔がわかりやすく輝く。

「ホンマ！？ありがとー！ええと……」
「私、AA。よろしくね、蜜柑ちゃん」
「うん！よろしくな、A！」

　蜜柑ちゃんは真正面から私を見る。かき消えた既視感が、またふつりと湧いてでた。

「……蜜柑ちゃんって、昔この学園にいたりしないよね？」
「へ？ないよ、ないない！ウチずーっと京都に住んでたもん」
「だよねえ……」

　口をぱかりと半開きにして首を振る姿は嘘をついているようには見えない。生まれてこの方京都住まい、東京にきたのもこれが初めて、と言う。なら、私が蜜柑ちゃんと会ったことはないはず……なんだけども。もやもやとした、変な気分が抜け切らない。不思議だ。記憶力の欠如。または認知力の欠損。この歳でこれはやばいんじゃなかろうか。強めのお薬出しておきますね？シロップのやつならどんとこいです。注射系はＮＧで。なんて頭の中でお医者さんとの会話をシミュレーションしているうちに、北の森が見えてきた。
　全面に広がる緑一面は圧巻だ。奥にいくにつれて日が翳り、昼間にもかかわらず陰鬱な空気を醸し出している。さすが人気の肝試しスポット。四人で行けば怖くないよね、なんて思ってたのに早くも怖い。
　蜜柑ちゃんは意気揚々と、私と委員長はおそるおそる、蛍ちゃんはめんどくさそうに。三者三様ならぬ四者三様で北の森へと足を踏み入れる。このまままっすぐ、斜めに突っ切って行けば森を抜けて高等部の校舎につくはずだ。

　えっちらおっちら、四人で団子になって歩くこと数分。木々のざわめきに紛れて、突然カコーン、と高らかな音が響いた。聞き慣れない音は二度、三度と続き、おそるおそる音のしたほうを覗いてみる。
　小さな、私の腰どころか膝くらいまでしかなさそうなサイズのテディベアが、もふもふの手で斧を握り、薪割りをしている。指もなさそうなのにどうやって斧を掴んでいるのだろう。ペタリハンド？ちょっぴり気になるものの、あれが噂のクマのぬいぐるみならば、おいそれと確かめられない。

「すっごーいっ」
「えっ」

　見つからないよう、音を立てないよう努めていた三人の輪から蜜柑ちゃんが抜け出し、躊躇なくぬいぐるみに近づく。ふさふさで柔らかそうな頬を、むぎゅっと両手で挟んだ。怖いもの知らず……ではなく、ぬいぐるみの噂を知らないのだ。だって今日入学してきたばっか。