開演ブザーは永遠に（１） (ページ48)

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「――行け！」

　合図に背を押されて走り出す。結界の中でアリスを使った影響なのか、一歩一歩がとても重く、まるで泥に浸かっているみたいだ。離れた場所で、白い、大きな襟が揺れる。蜜柑ちゃんもスミレちゃんも、もう扉の近くにいる。背後に男たちの手が迫る気配がした。

「動くな！」

　絶対に止まるなと言ったその声と、まったく同じ声で制止を命じる。反射的に振り返れば私に手を伸ばしたまま固まる男がいて、驚いて後ろにたたらを踏んで離れる。
　先ほどの声の主は、想像していたとおり、棗君だった。さっきまで私たちが転がされていた場所に留まっている。
　なんで、棗君はまだあんなところにいるの。ふつりと疑問と不安が湧いて、疑問には答えが、不安には更なる不安が与えられる。

「……少しでも動けば、この先にあるダイナマイトに火をつける」

　――棗君はもとより、逃げるつもりなどなかったのだ。
　脅しではないと証明するように、棗君は自分の掌に炎を生み出す。結界の中だというのに炎はぶれず、意志の強さを示すかのように燃える。

「なつめ、く……」
「行け……さっさと行け！」

　弾かれたように蜜柑ちゃんが動き、倉庫の扉を開ける。スミレちゃんが私の手を引っ張って外へ連れ出す。
　倉庫を出て、眼前に広がる景色は、当然ながら見知らぬものだった。小さな石が足裏を刺す。どこからか磯の、生臭い匂いがする。本当に外の世界にきてしまったのだと今更ながらに実感が湧いて、ざわりと鳥肌が立った。
　スミレちゃんに手を引かれたまま、ほとんど脚をもつれさせながら走る。

　学園へ、帰らなきゃ。
　棗君を、助けなきゃ。

　前へ前へ進もうとする心と、棗君を助けに戻ろうとする心が反発する。あんな状態、いつまでも持つとは思えない。レオたちか棗君を取り押さえるか――棗君がダイナマイトに火をつけて爆破させるか。そのどちらかだ。
　棗君が危ないと、危険だとわかっていながら、それでも脚が止まらないのは、きっと学園へ帰りたい気持ちが勝っているから。
　息を切らしながら必死に走り続ける。立ち並ぶ倉庫をいくつ越えても、学園までは遠すぎる。足裏を汚しながら、パタパタと隣で蜜柑ちゃんが駆ける。その足音が突然止んだ。