開演ブザーは永遠に（１） (ページ47)

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誘拐　脱走-1 ページ47

「……おい、寝てんじゃねえぞ」
「いっ！？」

　腰に強い衝撃を受けて気を失っていたことに気づく。棗君が片脚を私に向かって伸ばしていた。なるほど、この衝撃は棗君の蹴りによるものらしい。とても痛い。
　あいかわらず、私たちは埃っぽいコンクリートの上に寝かせられていた。さっきまで近くにいたレオが、離れた場所で部下らしき人にパソコンを操作させながら指示を出している。盗られてしまったイヤーマフは、と地面を見ても、回収されてしまったようで、なにも落ちてはいなかった。
　棗君は寝ていた、なんて言ったものの、こんな緊迫した状況ですやすや寝られるほどの豪胆さは持ち合わせていない。きっとレオの残虐な尋問で、私は気を失ってしまったのだ。そうに違いない。だから蜜柑ちゃんもスミレちゃんも奇妙なものでも見る目をしないでほしい。というかスミレちゃんはまだしも、蜜柑ちゃんにそういう顔をされるとちょっと心にくるものがある。

「……ボーッとすんな。さっさと手に入れた情報をよこせ」
「え、あ、ええ……！」

　私とは反対側にいるスミレちゃんがハッと頷き、喋りだす。あたり一帯にひと気はなし。近くの倉庫から大量の火薬と薬品の匂いがする。
　ひと気がないならば、もしこの倉庫から逃げ出せても、随分逃げ続けないといけない。学園と連絡が取れるまで、捕まらずに逃げられるだろうか。
　脱走の難易度を知らしめるだけとしか思えなかった情報に、棗君はなにかひらめいた気配を漂わせる。

「……お前ら三人、俺が合図したら……全速力であのドアに向かって走れ」

　逃げるなら今だと、棗君は言う。レオと黒服の男がパソコンに噛りついている今が一番の好機だと。

「走ったら絶対止まるな。一人でも無事逃げきったら、なんとかして学園にここの居場所を伝えろ」

　依然として棗君の体調は悪そうだ。蜜柑ちゃんの制止を、「俺はなんとかなる」と一蹴するものの、その言葉を本当に信じていいのかわからない。
　様子を窺えば、汗の伝う顔で不機嫌そうに目を逸らし、「起きろ」といまだ地面に伏せたままの私に命令する。言われるがまま起きあがり、中途半端に引っかかった足の縄を完全に解く。空気がさらに張りつめる。ビリビリとした緊張感が全身に走った。