開演ブザーは永遠に（１） (ページ46)

今日:32 hit、昨日:5 hit、合計:93,112 hit

4 ページ46

カンッ、と硬く、冷たい金属音が響く。棗君が、レオ目がけてなにかを投げつけていた。
　それを見て、レオが――
　――玲生君が、今度は棗君の腕を掴んでアリスを使う。言葉の意味までは頭に入ってこない。それでも酷いことを言っているのはわかった。止めなきゃ。そんなことしちゃダメなんだよって。また先生に怒られるよって。

「……め、だよ」

　どうにか身体を動かして、玲生君の足を掴む。力が入らないので、ほとんど手を添えるだけになってしまった。声は止まったから、玲生君の気は引けたらしい。

「とも、……ちに、ア……スつかっちゃ、せんせに、また、おこられ……よ」
「……はあ？」

　こっちを向いた玲生君はとても大人びていて、まるで高等部とかのお兄さんみたいだった。

「ゆっきー、おこったら、こわい、よ……しってるでしょ？れおくん」
「――お前、なにを知っている」

　腕が伸びてくる。襟元を掴まれる。怖い顔をした玲生君が首を絞めるようにして伸しかかる。同じことを、前に、誰かにも言われた気がした。誰だったっけ。吐いた息の音がざらつく。考える余裕がない。
　襟を掴まれたまま、ぐっと持ちあげられて地面から頭が離れる。本格的に首が絞まり、息ができなくなる。苦しいけど、怖くはなかった。だってきっと、鳴海君の時みたいに先生が助けてくれるから。そのはずだから。

「“お前、何歳だ？身体の成長を操るアリスか？ガリバー飴でも食ってんのか？ ……あの時学園にいたのか？”」

　脳髄を直接揺らす声は、いまだ健在だ。
　ダメだって、注意したのに、まだアリスを重ねてくる。頭がぼんやりして、悲しくもないのに目に薄い涙の膜が張って視界が歪んだ。ガリバー飴も、食べてるのは玲生君のほうなのに。自分だけ大きくなってクラスメイトをいじめるなんて、酷い。そんなのかっこ悪いのに。

「ぅ……あの、とき……？」
「っ、やめろ！さっきから、棗とAになにして――」

　どこからか伸びた手に玲生君の身体は押されて、よろめく。首を掴む手も離れ、ごつんと頭を打ちつけて地面に倒れ伏す。絞まっていた喉に一気に空気が入り込み、小さく咽せながらも、安心感を覚えていた。
　だって、ほら、やっぱり先生がきてくれた。先生はいつも私を助けてくれる。玲生君、とっても怒られるよ。庇ってあげないんだから。

　――でも、不思議だな。なんだか声が高くて、先生じゃないみたい。まるで、同い年くらいの女の子みたいな……。