開演ブザーは永遠に（１） (ページ43)

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誘拐　倉庫-1 ページ43

ふっと意識が浮上すると、ふかふかなお布団にくるまっていた……なんてことはなく、なぜか、硬くて埃っぽくて寝心地最悪なコンクリートに寝かせられていた。敷き布団もかけ布団も枕もなにもない。地面に触れている横顔が冷たい。身体が痛い。起きあがろうとしてから、手足が縛られていると気づく。履いていたはずの靴は脱がされていた。隣には黒髪の、たぶん男の子が寝ている。
　あれ、私、レオとぶつかったんじゃなかったっけ。
　病室にいたのに。ここはどう見ても病室ではない。清潔という言葉からはほど遠い環境だ。あたりには、大人でも到底天井には手が届きそうにない大きなコンテナが二段、三段と積まれていたり、錆びたドラム缶が置いてある。
　ここ、どこ。
　伏せたまま、自分と、周りを一つ一つ確認するうちに、状況の異常さが理解できてきた。隣に寝ている男の子の、さらに向こうからひそひそと話し声が聞こえる。聞き慣れた、女の子の声。

「あ、ぇ……すみれ、ちゃ、みか、ちゃ……？」

　寝起き特有のぼやけた声で呼ぶと、二人と、男の子が反応した。私の隣に寝かせられているのは棗君だった。呼吸が荒く、肩で息をしている。棗君、入院中じゃなかったっけ。場違いにもそんなことを思った。

「っあ、Aも起きた……！」

　状況がまったく掴めない私に、蜜柑ちゃんとスミレちゃんが声を潜めたまま説明してくれる。
　レオが棗君の病室に入っていくのを見て、窓から中を覗くと誘拐場面の真っ只中だったこと。車のトランクに移動させられ、そのまま学外へ攫われた私たちを追って、二人とも学園を飛び出したこと。追いかける途中でレオたちに捕まってしまったこと。この場所には、おそらく結界が張り巡らされていること。結界のせいで学園が私たちを見つけられないこと。今夜の二時に密輸船がくるらしいこと。
　――つまり、私は今、外の世界にいる。学園を出てしまった戸惑いと、それを上回る妙な罪悪感に見舞われる。
　早く、早く学園に帰らないと。
　ここは、違う。私の場所じゃない。焦燥感に駆られ、身体が冷えて心臓が嫌な音を立てる。バクバクとうるさいそれを誤魔化そうと身動ぎして、気づいた。普通に床に寝そべるよりも頭のほうに妙な段差がある。それに、周囲の音もやけにくぐもっていて聞こえづらい。

「あ、こ、これっ。このイヤーマフで蛍ちゃんたちと連絡取れるかも……！」
「あ……ほ、ほんまや……！」