開演ブザーは永遠に（１） (ページ5)

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床におろされた蜜柑ちゃんがそのままへたり込む。蜜柑ちゃんはアリス候補生だったのか。仮入学は珍しく、あまり前例もないが、珍しいだけでゼロではない。それなのにみんな初めて見たような、変な生き物にでも遭遇したかのような反応をする。

「信じらんない！その子、自分のアリスも知らないの！？なんでそんな子がこの学園にいるわけ！？おかしいわよそんなの！」

　スミレちゃんは高い声でズバズバと蜜柑ちゃんを疑う言葉を重ねる。さらには売り言葉に買い言葉、アリスを持つ人間がどれだけえらいか、一般人とはどれだけ違うか、なんて話にまで発展する。兄妹揃ってアリスの持ち主、幼い頃から学園にいるスミレちゃんはアリスであるプライドが人一倍高かった。

「あたしたちは選ばれた人間なの。使い捨ての、いくらでも代わりの利く一般庶民とは人間の格が違うのよ」
「っ、そういう言い方、よくないよ……」

　スミレちゃんの言葉がとても哀しくて、つい、言葉が口をついて出た。

「……なによ。貴方、まさかアリスのくせに凡人の肩持つつもりじゃないでしょうね」

　つりあがった目が不機嫌に細まる。まっすぐ射抜かれて、吃りそうになりながら話す。

「……その、アリスであることに誇りを持つのは、いいことだと思う。自分の力を認めて、受け入れているってことだから。……でも、それで、アリスじゃない人たちを貶めていいことにはならないよ」

　ポツリ、ポツリと呟くと教室が静まった。みんなが私を見ていて緊張する。スミレちゃんの顔が一瞬赤くなり、唇が震え、それを隠すように小さく噛む。揺れた目が再び私を見据える。

「今あんたには話してないのよ！そこの転入生とやらに言ってんの！」

　スミレちゃんは私の肩を突き飛ばして、蜜柑ちゃんのほうに歩いていく。怒らせてしまった。でも、ほんの少しでも伝わればいいな、なんて。

「ちょっと、あんたよ！聞いてるの！？アリスの証拠もないくせにいつまでここに居座る気よ！」

　蜜柑ちゃんはさっきの体勢のまま、座り込んだままで何度も蛍ちゃんの名前を呼ぶ。その声はひどく切実で、必死な響きを帯びていた。少し前に委員長と蛍ちゃんが本部に呼ばれていたから、蜜柑ちゃんとは一足先に顔を合わせていたのだろうけど、ついさっき出会ったばかりの相手にする反応ではない。友達、とかだろうか。どこの――外での、友達？
　呼ばれた蛍ちゃんは一切反応を見せずに沈黙を貫く。蜜柑ちゃんが呆然としているのが、背中から伝わる。

「早くここから出ていきなさいよ、図々しい！」