開演ブザーは永遠に（１） (ページ38)

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「ありがとうございました！」

　種をレジに持っていって会計を済ませ、溌剌とした店員さんの声に送り出されて店を出る。空はまだ明るく、夕方と呼ぶには早い時間だった。
　今なら、まだホワロンを買えるかもしれない。
　一縷の望みを胸に広場前のお店に急ぐと、甘い匂いが漂ってきた。幸いにも販売終了の札はあがっていない。小走りで列に並べば、私の前にはとても見覚えのあるツインテールの女の子が。

「蜜柑ちゃん？」
「え？あ、A！ Aもホワロン買いにきたん？」
「うん！蜜柑ちゃん初ホワロンだよね？すっごくおいしいからほっぺ落ちないように押さえてたほうがいいよー」
「ええーっ、ほんまぁ？どないしよー」

　ステマではない。純粋な感想。ホワロンのおいしさを伝えると蜜柑ちゃんが自分のほっぺたを押さえる。ノリがいいね。
　並んでいる間、蜜柑ちゃんは星なしのお小遣いじゃホワロンは買えないから、広場でちょっとした小芝居をしてお金を稼いだと教えてくれた。演目は、“マッチ売りの少女蜜柑”。私がお花の種を買っている間にそんな楽しそうなことが巻き起こっていたのか。観てみたかったな、そのお芝居。

「で、蛍たちにも手伝って貰ったから、ほら、ホワロン八個入りやろ？蛍とか委員長にも分けてー、ウチも一個食べて、残りはじーちゃんとこに送んねん！」
「――え？」

　楽しそうに指を立てていく蜜柑ちゃんに思わず言葉が詰まった。蜜柑ちゃんの手紙は燃やされて、おじいさんの手紙も処分されて、届かないんじゃなかったのか。
　私の戸惑いが伝わったのか、蜜柑ちゃんはポツポツと語る。

「えっとな……この前、鳴海先生の家泊まって、いろいろお話ししてん。手紙届けられへんかった理由は教えてくれんかったけど、絶対なんとかするって言ってたから。先生、ちゃんと約束してくれたから。今度こそじーちゃんに届けてくれる。ウチは鳴海先生を信じるよ」

　蜜柑ちゃんは笑う。薄暗い闇を見ても尚、濁らない目で。見ているとまた頭が痛くなりそうで、その痛みに気づかないふりをする。

「……おじいさん、絶対喜ぶよ」
「……うん！」

　私の言葉に、蜜柑ちゃんはまた笑った。