開演ブザーは永遠に（１） (ページ4)

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遠心力によってぶんぶん振りまわされる両脚が、ふよふよと浮かぶ身体が危なっかしくて、万が一にも蜜柑ちゃんが落下した時、どうにか受け止められないかと着地地点をうろうろする。「やめなよみんな……！」そう言いながら委員長もうろうろする。半泣きの委員長は、「Aちゃんは離れておいたほうがいいよお」と私に向かって言う。たしかに私ではクッションどころか二次被害になりかねないけども。

「あら……やめることないわよ」

　さっきから口を挟む機会を窺っていたらしく、つっけんどんな口調とともにスミレちゃんが席を立つ。棗君と流架君のファンクラブ会長を自称するスミレちゃんは、蜜柑ちゃんの態度にたいそうご立腹のようで、まとう雰囲気が普段以上に刺々しい。――と思ったのに、棗君の“おろせ”という一言でコロリと声の質が変わった。恋する乙女とはそういうものなのだ、たぶん。
　兎にも角にも、蜜柑ちゃんが解放された。ミッションコンプリート、というよりは負けイベントに近かった。持ちあげられた時に詰まったらしく、首に手を当てて呆然とする蜜柑ちゃんの背中をさする。

「……お前、どういうアリス持ってんだ」

　棗君が真っ赤な目で蜜柑ちゃんを見据える。そういえば、自己紹介の時に言っていたのは名前くらいだった。アリスはまだ聞いてない。特力ならいいなー、なんて考えは呑気すぎたようで、棗君が指を鳴らしたのと同時に、蜜柑ちゃんの背中が私の手から離れてぐんぐん遠ざかった。

「み、蜜柑ちゃん……！」

　負けイベント、パートツー。せめてセーブポイントを挟んでほしい。棗君にしても指パッチン一つで気軽に人体浮遊を起こさないでもらいたい。
　またしても持ちあげられてしまった蜜柑ちゃんの下でぴょんぴょんジャンプしても、当然ながら足元にかすりもしない。せめて鳴海先生、欲を言えば岬先生あたりがきてくれないか、ちらりと教室の扉を窺う。誰かがきてくれる気配はまったく見えない。というか教卓付近で倒れてる副担先生を発見してしまった。

「――“そういえばウチって、ホンマはどんなアリス持ってるんやろ。先生はウチをアリスゆうてくれたけど”」

　平坦な声が、突然響いた。関西の人が聞いたら怒りそうな、ちょっとズレた発音。滅多に本名を呼ばれない、心を読む彼が喋り、教室中の注目を集める。関西弁なのは本人の心の声に律儀に合わせているからだろう。

「“ウチってばホンマにアリスなんかなーなんて”」