開演ブザーは永遠に（１） (ページ27)

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「おそーい！翼っ！」

　カコーンといい音が鳴った。めちゃくちゃ痛そう。どうやら翼先輩がきたようだ。美咲先輩を追いかけて扉から顔を出す。廊下には、床に転がったペンキ缶と、顔面を押さえながら尻餅をついてる翼先輩。さらに、固まった蜜柑ちゃんまでもがいた。

「あっ、もうきたの！？」

　わたわたとポケットを漁って、突っ込んでいたクラッカーを取り出す。教室の中にいるみんなにきたよ！と声をかけてから、クラッカーの紐を引っ張る。

「ようこそ、特力へ！」

　扉を開けた瞬間にドッカーン、みたいな理想の歓迎ではなく、もたついた歓迎になってしまった。それでも、ふわ、と息の抜けた声がして、蜜柑ちゃんの頬が赤く染まる。目は輝き、口はぽっかりと穴を開ける。
　どうやらサプライズは完全に失敗というわけでもなさそうだ。

　料理の買い出しに行ったのは食べ盛りな中高生。そうなれば必然的に、机の上にはジャンクフードが並ぶ。味が濃くてカロリーも高め。ポテトは野菜。
　朝ご飯をちゃんと食べてきていても、こういう雰囲気だと腹の空き具合に関係なくいろいろつまんでしまう。それに、寮のご飯や給食ではジャンクフードは出てこないので食べ物としては特別枠に入るのだ。
　チーズにトマト、ソーセージ、バジルが乗った王道なピザ。山盛りになっている細長いポテト。塩っけのあるものを食べて、ジャンクなものを食べたい欲が満たされると、次はすぐそこに見える甘味が気になってくる。
　綺麗な丸を描いていたホールケーキは、今は切り分けられ、ピースがいくつか欠けている。それを自分の分に加え、両隣に座る蜜柑ちゃん、翼先輩の分も取り分ける。主役にはイチゴが多めに乗っているところをあげちゃう。

「はい、蜜柑ちゃん」
「ありがとう！」
「はい、翼先輩。口の周りにケーキつけちゃダメだよ」
「つけねえよ。俺のこといくつだと思ってんだ」

　何歳だっけ。中等部二年生だっけか。数年前までは同じ校舎で勉強していたのに、時が流れるのは早い。
　なんとなくしみじみしつつ、お皿に乗ったケーキをつっつこうとした時、机の反対側に座る猿のお面を被った猿田先輩に手招かれた。

「Aー、ピザ冷めたからアリスで時間戻してくれ」
「チキンも！」
「ついでにコーヒーも！」
「電子レンジ使えばいいのにー」

　切られた口火に続き、あっちこっちから声をかけられる。家電扱いされて文句を言いつつも、頼られるのは嬉しいのでアリスを使う。ちょろいね、自分。