開演ブザーは永遠に（１） (ページ25)

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「……どうしたの？」

　蜜柑ちゃんが最初にＢ組にきて以来、スミレちゃんと言葉を交わすのは初めてだ。顔を仰ぎ見て尋ねる。スミレちゃんはさらに口を引き結んでうつむいた。

「……だい……ぶ……な……」

　ハキハキと喋るスミレちゃんが口籠るのは珍しい。教室に高らかに響く声は、今は私の耳にすら届かない。

「ご、ごめん、なんて？」
「っ、だから！大丈夫なのかって聞いてんのよ！」

　スミレちゃんがばっと顔をあげて、目が合う。ほっぺたが真っ赤だ。

「だ、いじょぶ、だよ」
「……ならいいわ」

　いささか勢いに気圧されながら頷くと、スミレちゃんは再びうつむいた。用件はそれだけではないようだ。言葉を探し、口の開閉を繰り返すスミレちゃんを辛抱強く待つ。

「…………この間のことだけれど。発言を撤回する気はないわよ。あたしたちアリスは選ばれた人間で、一般人とは違うんだから。……でも、その…………ほんの少しだけ、言いすぎたかもしれない、なんて……」

　どこか居心地悪そうにスミレちゃんは喋る。
　わざわざこれを言いに部屋の前で待っていてくれたのか。教室でのやり取りは、喧嘩や口論というには小さく、単なるすれ違いとでも称されるようなものだった。時間とともにわずかに抱える気まずさも吹き飛び、すれ違いそのものをなかったことにできたかもしれない。
　――それでもスミレちゃんはここにきた。歯切れの悪い言葉はスミレちゃんなりの譲歩であり、謝罪だ。

「……ありがとう」

　私はスミレちゃんのこういうところが好きだなあ。もじもじと何度も組み替えられる手に自分のものを重ねて包み込む。

「な、なんであんたがお礼言うのよ！」

　いっそう頬が赤くなった。ツンとデレの配分が完璧だね。