開演ブザーは永遠に（１） (ページ23)

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新品の制服に袖を通す。ボロボロになってしまった制服は、神野先生と入れ替わりに戻ってきた医務室の先生が処分しておいてくれるらしい。医務室の扉を開け、廊下に出ると、橙色の光が目に焼きついた。私が気絶していたのは一時間や二時間ではなかったようだ。校舎が夕日に照らされ、影が長く伸びる。当然、教室には誰も残っていなかった。
　いつもならば誰かとおしゃべりしながら帰る道を、一人、思案に沈みながら帰る。考えろ、思い出せと心のどこかで訴えていて、同時にそうすることへの強い拒絶心が沸きあがる。これ以上考えるべきではない。
　ぐるぐると考えが定まらない。思い出せないことが悲しくて、思い出すことは恐ろしい。次第に頭が痛くなり、気分が悪くなる。チカチカと目の前で光が点滅する。道沿いに置かれたベンチにまでどうにか行きつき、鞄も背負ったまま座り込む。そんなに気温は低くないのに、なぜか、肌寒い。

　寮までの道のりは、普段よりも長く、遠く感じられた。みんなに沈んだ顔を見せられない。寮の前で大きく息を吸い込む。気を張って、玄関の扉を開き、中へ入ると、談話室に蜜柑ちゃんらがいた。それぞれ思い思いに過ごしている。

「あっ！ A！」
「Aちゃん……！」

　蜜柑ちゃんに委員長、野乃子ちゃんたちにぐるりと囲まれて口々に心配される。なんでも私だけではなく、神野先生まで倒れて大変だったそうだ。蜜柑ちゃんと蛍ちゃんが私を保健室に運んでくれたらしい。……そのあとの授業はボイコットしたとも言っていたが。
　教師に向かって怒鳴るという私の奇行は神野先生も倒れた衝撃である程度上書きされたようで、みんな私の発言ではなく、体調を気にしてくれる。あまりにも奇怪で、触れるのを避けている説も捨てきれないけど。
　医務の先生にもちゃんと診てもらったから、大丈夫。そう伝えれば、心配そうな顔も安堵へと変わった。

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