開演ブザーは永遠に（１） (ページ22)

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星階級　後-1 ページ22

「起きたか」
「は、はい」
「体調はどうだ」
「え、えと……だいじょぶ、だと、思います……」

　顰められた眉と、私を見おろす顔に、かちりとなにかが当てはまった感覚がして、堰を切ったように記憶が流れ込む。気絶する前に、自分がした行動を思い出す。
　――どうして、あんなことをしたんだろう。
　怒り、手綱を失って暴れ出した感情も、自分の口から出た言葉も、すべて忘れてはいない。――だというのに、肝心の、どうして怒ったのかが、綺麗に抜き取られていた。どうして、なんで、誰のために、私はあんなふうに怒ったのだろう。焦りと困惑が噴き出し、ひたひたと恐怖感が迫りあがって肌が粟立つ。

「……お前はなにを知っている」

　眼鏡の奥の目を細めて神野先生は問い質す。その視線は、昼間に鳴海先生から向けられたものと同じ種類のものだった。なにを知っているかなんて聞きたいのはこっちのほうなのに。

「わか、んな……知ってるって、なにを……私は、なにを知ってるんですか……私はなにを忘れてるの……？ ……先生って、誰。私の先生は鳴海先生じゃないの？ ……私は、だれを先生っていってるの……！」

　神野先生に歯向かうなんて考えられない。もう一度やれと言われても、きっと無理だ。それなのに気絶する前の自分はやってのけた。――“先生”が侮辱されたから。

「……蜜柑ちゃんと同じアリスを持った人って、誰なんですか？」

　目が熱くて、視界が滲む。白いシーツを握りしめて皺を作る。なんでこんな質問をしなければいけないのか、それが悔しくて、悔しさを抱える自分に戸惑った。

「……そいつがいたのはAが入学する以前のことだ。知っているはずがない。単なる人違いだろう」
「誰と人違いしてるの！？無効化なんて珍しいアリス――」
「話は終わりだ。ここでのことは誰にも言うな。その教師についても決して他言するな。漏洩が判明すれば降格処分とする。無論、話を聞いた者もだ。わかったか」

　有無を言わせず、追及も許さない口ぶり。それでも、どうして、と問いたかった。

「……っ」
「新しい制服はそこに用意している。授業を妨害した罰則はあの雷で終わらせてやろう。次からは真面目に受けるように」

　寝台の横、サイドテーブルに乗った制服を指して、神野先生は保健室から出ていった。