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目が細まり、疑惑の光が隠れる。艶々の唇をつりあげて鳴海先生は笑う。なんだかちょっぴり怖くなって、制服のスカートをギュッと握りしめる。
「そ、そう、かも! ご、ごめんなさい、変なこと聞いちゃって。あの……私、教室戻るね!」
向けられる視線から逃げ出そうと、パタパタと小走りでその場を離れた。……あんまり聞いちゃいけないことだったのかな。
微妙に気まずかった昼休みも終わり、午後の授業が始まる。
科目は算数。給食を食べてお腹が膨れたあとに数字の羅列はつらいものがあるが、前の、蜜柑ちゃんに星なしの評価がくだされた日以来、いっそうピリピリしてる神野先生を見たら眠気も吹っ飛ぶ。
あと五分で今解いているページの答え合わせだ。当てられた人が一人一人黒板に答えを書く形式。どれが当てられるかわからないから、空欄のままにはならないよう、少しでも答えに自信が持てるように、集中して問題を解く。
「――授業中ということを、すっかり失念しているようだな、新入生」
一定の緊張感が満ちた教室に、冷ややかな声が響く。バチッ! と鋭い音、なにかが倒れる音が続け様にした。教室の後ろで、蜜柑ちゃんが床に投げ出される。
すぐ側には、神野先生が立っていた。つりあがった目と眉。尖った顎の横に、指揮棒みたく持ちあげられた教鞭の先が見えた。
どうして、あんな、いきなり。
これまで神野先生が、罰則としてアリスを使うことが、なかったとは言えない。けれど、ここまで力を強めることはなかった――はずだ。倒れた蜜柑ちゃんの姿にぞっとする。
「蜜柑ちゃん!」委員長が飛び出していったのにも構わず、神野先生はただ教鞭の先に雷を溜め続ける。これこそが、自分のアリスの正しい使い方とでもいうように。
「……昔、お前と同じアリスを持った人間がいたが」
同じ――蜜柑ちゃんと同じ、“無効化のアリス”。
どくんと、心臓が奇妙に脈打つ。
「お前のように図に乗った、秩序を乱す愚か者で……挙げ句の果て、ろくな死に方をしなかった」
続く言葉に、頭の中が白く染まった。
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作者名:きざし | 作成日時:2020年4月6日 21時