星階級 前-1 ページ19
蜜柑ちゃんのアリスは珍しいから、蛍ちゃんみたく一足飛びにダブルかもしれない。
――そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
神野先生の怒りを買った蜜柑ちゃんは、初等部でも珍しい星なしの地位を与えられた。部屋は屋根裏、食事はおかず抜き、デザートはもちろんなし。さらにはほかの子にパシられたりとなかなかに悲惨な生活を送っているのに、泣いたり怒ったりするのは最初だけで、最後には笑っている。ポジティブの権化だ。
お昼休みの今だって、ゴミ袋ならぬ動くゴミ箱が吐き出したゲロ袋を両手に持ってパタパタと走っている。
それを横目で見ながら廊下を歩いていたら、かわいらしい封筒に入った、誰かが書いたのであろう手紙を持った鳴海先生がいた。私と同じく蜜柑ちゃんたちを眺めている。ぽつりと、誰に聞かせるでもなく、ふと口からこぼれ落ちたように、「似てるな」と呟いた。
「……似てるって、誰に？」
「っ！ ……ああ、Aちゃん。いや、なんでもないよ。単なるひとりごと」
つい声をかけたら、鳴海先生は驚いた様子で振り返った。私、そんなに影が薄いのかな。バスケでもしたほうがいいのかもしれない。運動神経がお粗末すぎるので無理か。早々に諦める。
「ひとりごと……」
「そーそー。で、Aちゃんはどうしたの？ 僕になにか用事？」
膝に手を当てて、屈みながら聞いてくる鳴海先生は、笑っている。たぶん、心の底からの笑顔ではない。さっきの言葉をごまかそうとしている様子。鳴海先生がそうすることも、蜜柑ちゃんを見る目がどことなく懐かしそうだったことも、なぜか引っかかる。
「……あのね、私、蜜柑ちゃんに見覚えあるの。前に会ったような、似た人を知ってるような。けど、思い出せなくて。鳴海先生、なにか知らない？」
顔を見るたびに、声を聞くたびに、笑顔を向けられるたびに、ぼんやりと感じる既視感。鳴海先生ならば、重なり積もった疑問に明確な答えを与えてくれる、と、確信していたわけではない。少しでも糸口を掴めれば。そんな軽い気持ち。
だというのに、鳴海先生はかすかに表情を強張らせたあと、探るような目で私を見た。
「え、えと……」
「んー、ちょっとわかんないなあ。あ、ほら、おととしくらいに初等部を卒業した子がよくツインテールしてたから、その子と間違えてるんじゃない？」
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作者名：きざし | 作成日時：2020年4月6日 21時
