開演ブザーは永遠に（１） (ページ17)

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パートナー-1 ページ17

「佐倉蜜柑、正真正銘のアリスです！」

　昨日と同じように、蜜柑ちゃんが教卓の横で自己紹介する。昨日と違う点は、鳴海先生も一緒にいること、蜜柑ちゃんのアリスが判明したこと、そしてなにより、クラス中が歓迎ムードになっていることだ。……スミレちゃんたちを除けば、だけど。
　北の森ではひと騒動以上のことがあり、あのあとも、気絶していた棗君が意識を取り戻すや否や大爆発を起こしたり、それが原因で警報が鳴っちゃったり。オマケと呼ぶには波瀾に満ちた出来事が起きた。
　結果として、蜜柑ちゃんには“棗君の試験に合格した”との箔がついたのだから、それらの苦労も浮かばれるというものだ。「あのベアに勝ったのかよー」「どんなアリス持ってんの？」「北の森、どうだった？」などなど、みんな蜜柑ちゃんに興味津々で、鳴海先生に着席を促されてからもまだ話し足りなそうにチラチラと蜜柑ちゃんを見ている。これならきっと、蜜柑ちゃんもすぐにこのクラスに馴染むだろう。
　新しいお友達、それも、たぶん、同じ特力。特力系は人数が少ないから、新しい人がきてくれるとやっぱり嬉しい。ほかの子が転校してきた時よりも、期待だとか、嬉しさとかが勝ってしまう。
　うきうきわくわく。言葉にするならそんな感じ。ほとんど床につかない足をぷらぷらさせて鳴海先生の話を聞いていたら、扉の開く音がして、教壇からそちらへと視線を奪われる。
　わずかによろめきながら教室に入ってきたのは棗君だった。首に手、膝。制服から覗く肌はことごとく生傷がついていて痛々しい。密やかに囁かれる“黒猫”の異名どおり、猫のお面をつけているが、それが見た目よりもずっとかわいくない効果を発揮するのは周知の事実だ。アリスが全然使えなくなるだとか、集中力を削ぐために仮面から電流が流れてくるだとか。
　明るく浮ついた空気から一転、重たく不安げな空気に包まれる。スミレちゃんだけはもの怖じもせずに、「棗君聞いて！みんなったら勝手にあの子のこと持ちあげて……」と、話しかけて、棗君は無言のままスミレちゃんの机を蹴りあげた。三人がけの、そこそこの重さのある机が何センチか前へずれる。それを一瞥することなく、自分の席へと座った。

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