開演ブザーは永遠に（１） (ページ14)

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トラブルに次ぐトラブル、“北の森を抜ける”との目標だけが先走り、肝心の、自分のアリスについてはすっかり頭から抜け落ちていたらしい。さあっ、と、音が聞こえそうな様子で顔を青くする蜜柑ちゃんに笑いかける。

「大丈夫だよ。アリス候補生の子ってほかにもいたことあるけど、ちゃんとアリス見つかってたもん。ね、委員長」
「え？ええと、僕の入学する前のこと、かな？」

　委員長がきょとりと目を瞬く。言われてみれば、委員長はいなかった気がする。最近の出来事だと思ってたのに記憶違いだったようだ。私の記憶力は家出中なのかもしれない。だ、大丈夫かな、自分……。

　流架君を交えて、高等部校舎へ。体感では、もう半分ほどで森を抜けられると思う。そこで、「あ」と、委員長がなにかに気づき、表情を凍らせた。
　復活したベアが追いかけてきたかと思いきや、現れたのは棗君だった。おそらく、ではなく、確実に怒っている。
　蜜柑ちゃんの髪を掴み、木に押しつけて凄む棗君の目は、暗く、殺伐としていた。殺気を感じ取る修行や訓練はもちろん、そうしたものとは縁遠い私でも、この肌に突き刺す空気と威圧感が、そうなのだと本能で理解する。指先一つの微動も、息を吐くことも、こんなに、重い。

「あー……」

　緊迫した空気の中に響く、蛍ちゃんのため息に似た声。服のポケットから取り出したなにかを地面に投げつける。ボンッ、と弾ける音がしてあたりに白い煙幕が広がった。金縛りが解けて、身体が動く。煙る視界の中、蜜柑ちゃんが私たちのもとに合流しようとして――委員長と私、二人を中心に、炎がぐるりと円を描いて燃えあがった。
　――棗君のアリスだ。

「あつ……！」

　身の丈を易々と超える炎の壁が燃え盛る。焚き火を消した時の要領でアリスを使っても、どれだけ力を込めようが、火の勢いが衰える気配はこれっぽっちもない。能力に差がありすぎる。私では、棗君のアリスにまったく歯が立たない。

「っ、いいんちょ……！」

　ゴホッと咳き込む声が近くで聞こえた。とにかく委員長だけでも守らないと。できるだけ炎から離れようと、委員長を引っ張って抱きしめる。火はじわじわと円を狭めて私たちを追い詰める。